実戦問題 16
(妻がふと部屋を見ると、雇い入れた女が、首を取って鏡台に掛け化粧をしていた。)
あるじ
あひだ
(妻は)主の殿(=夫)に、「かかること侍るをば、いかが計らひ給ふぞ」と言へ
ば、「まづ*何となく暇を出だせ」と言ふほど、女を近づけ、*近ごろ言ひか
ね侍れども、人多く侍れば、 「一人も二人も暇を出だせ』とのたまふ * 間、そなた
のやうなる重宝の人はましまさぬほどに、いつまでもと思へども、いづれも*譜
代の者にて、 出だされぬ者どもなれば、まづまづいづ方へも出でられ候へ。そ
めい
をりふし
のうへ、夫の命背きがたく侍れば、重ねて娘嫁入りの折節は迎へ侍らん」と言ふ。
その時、女、気色変はりて、「さては、何ぞ御覧じて、かく仰せ*候ふやらん」と、
るよ
はう
そばへ近く居寄れば、「その方は何事を言ふぞ。またやがてこそ呼び侍らめ」と、さ
りげなくのたまへども、「いやいや、曲もなきことなり」とて、飛びかかりける
ところを、男、かねて心得けるにや、後ろに立ち添ひけるが、刀を抜き、はたと
切る。切られて弱るところを引き直し、心のままに切れば、年経たる猫なり。
センター試験
出題文
15 助動詞
けしき
いとま
Exercise
「曽呂利物語」
「曽呂利物語』は、江戸時代に
刊行された怪談集。
*何となく=何ということなく。
首を取って化粧をしていたか
らなどという理由を示すこと
なく、の意である。
*近ごろ=とても。 非常に。
間〈ので〉の意。
*重宝の人=役に立つ人。 実際
この女は、いろいろな仕事が
よくできたと前のところでは
書かれている。
*譜代=代々同じ主家に仕えて
いる者のこと。
*候ふやらん=~ますのでしょ
うか。 「やらん」は、「にやあ
「らん」が縮まった形。
*曲もなきつれない。情がな