と事もかなはねば、思らばかりにて、孝養することもなくて過ぎ給ひにける
ほどに、しかるべき所に仏事しける導師に講ぜられて、布施など多く取り給
ひたれば、いとうれしくて、すなはち、母のもとへ相ひ具してわたり給へり。
この母、世のわたらひたえだえしきさまなり。いかによろこばれんと思ふほ
どに、これを打ち見て、うちうしろむきて、さめざめと泣かる。いと心得ず。
「君、(A)のあまりか」と思ふ間に、とばかりありて、母の言ふやう、
ごせ
としごろ
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「法師子を持ちては、我、後世を助けらるべき事とこそ、年来はたのもしくて
注3 とんせい
過ぎしかまのあたり、かかる地獄の業を見るべき事かは夢にも思はざり
き。」と言ひもやらず、泣きにける。これを聞きて、僧都発心して、遁世せ
られける。ありがたかりける(B)の心なり。(発心集)
1年たかくわりなき―ひどく年老いた 2導師―仏事の時、指導者となって
事を行う僧 3遁世世俗との関係を断って、修行に専念すること
11 【内容吟味】 -線①と同じ人物を指す語を、「母」を除いて文中から二
語抜き出しなさい。
【指】
線②はどんな志か、漢字二字で書きなさい。
(孝養
【語意】 線③の意味として最も適当なものを、次から選んで、記号
で書きなさい。
母がよくお参りしている寺
仏事を営むのに適当な寺
ウ 豊かでりっぱな家
エ僧都の親しくしている家
4 【敬語】 一線⑨・⑤は尊敬語を含んでいますが、それぞれだれに対す
る、だれの敬意ですか。 通師
恵心僧都」
に対する
]内に書きなさい。
恵心僧都
(⑤) 【理由吟味】 線 ⑥は、わが子がどういうことをしているといったもの
ですか。 次から最も適当なものを選んで、記号を書きなさい。
)
欲の深い導師と付き合っている
ほしご
ア
)()
33
JO
(
(
)
人