たまかつま
玉勝間
ことば
兼好法師が詞のあげつらひ
兼好法師が徒然草に、「花は盛りに、月はくまなきをのみ見るものかは。」
とか言へるは、いかにぞや。
いにしへの歌どもに、花は盛りなる、月はくまなきを見たるよりも、花の
もとには風をかこち、月の夜は雲をいとひ、あるはち惜しむ心づくしをよ
めるぞ多くて、心深きもことにさる歌に多かるは、みな花は盛りをのどかに
見まほしく、月はくまなからんことを思ふ心のせちなるからこそ、さもえあ
らぬを嘆きたるなれ。いづこの歌にかは、花に風を待ち、月に雲を願ひたる
はあらん。 さるを、かの法師が言へるごとくなるは、人の心にさかひたる、
のちの世のさかしら心の、つくりみやびにして、まことのみやび心にはあら
ず。かの法師が言へることども、このたぐひ多し。みな同じことなり。
すべて、なべての人の願ふ心に違へるを、みやびとするは、つくりことぞ
LO
1兼好法師 1.7
2徒然草 →2.7
3花は盛りに・・・ 『徒然
七段の冒頭。
4つくりみやびわ
あ
多かりける。恋に、逢へるを喜ぶ歌は心深からで、逢はぬを嘆く歌
して、心深き