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たかし
歴史と人間の結びつき
内山 節 「「里」という思想」
情報化社会は、氾濫している情報のなかから選択することだけを、人に要求する。その情報が生まれ、消え
ていく歴史は問われない。今日の市場経済もまた、現在の利益や効率だけを私たちに迫る。市場経済がいかに
生まれ、いかに滅んでいくのかは、この経済にとっては関心事ではない。
図 社会のこのような現実は、歴史とともに生きているという感覚をスイジャクさせる。そして、そのことの重
大性を私たちに教えたのが、二〇〇一年のニューヨークのテロ以降の雰囲気だった。 中東の歴史、世界の歴史、5
戦後における経済や軍事、アメリカの歴史を検証しながら、なぜテロが起きたのかを掘り下げていく力は弱っ
ていた。いわば社会は、歴史のない世界のなかでテロと向き合い、アメリカによる新たな戦争に同意したので
ある。
この状況は、歴史という時間軸を感じとる力を失ったとき、人は頽廃することを意味していた。
ところで、少し前までの社会では、人々は自然に歴史の時間軸を感じとることができた。子供たちはおじい m
さんの植えた木をみながら育ち、多くの人たちが、祖先が基礎をつくった家業を継いだ。 語り継がれていく言
葉、作法、習慣、行事、祭り、受け継がれた技。そういったすべてのものが、人は歴史という時間軸とともに
生きていることを、自然に感じとらせた。つまり、人間は、自分が生きている小さな世界=ローカルな世界で
歴史を感じとっていたからこそ、それと照らし合わせながら、日本の歴史や世界の歴史といった大きな歴史を
も、読みとることができたのである。
ところが現在では、自然に歴史を感じとることのできるローカルな世界が、弱体化している。私たちは次第
に、歴史を感じとることのできない、都市の漂流民化していった。しかもその私たちが身を置いているのは、
情報化された市場経済の社会である。
現代人は、歴史のソウシツという人類の危機に立たされているのかもしれない。しかも、歴史を自然に感じ
とれる生き方を失えば失うほど、そこで語られる歴史は、生きている場で検証されることのない、都合のよい 2
解釈にすぎなくなっていく。
かつて欧米の歴史理論は、世界を文明と野蛮とに分け、世界の文明化=欧米化が近代以降の歴史だと説いた。
な単純で都合のよい歴史解釈が疑いもなくまかりとおるとすれば、
歴史を感じとれる場所を失っ
9
評論
EHEHHE
a
2005
15
悟注
ニューヨークのテロ 航空機によるテ
ロ事件。この後、アメリカはテロ
絶の名目で軍事行動を起こす。
上の国~段落の中心文にそれ
ぞれ――線を引け。
また、段落メモを完成させよ。
段落メモ キーワードをつかむ
情報化社会も市場経済も、
は関心事ではない。
2このような現実は
ととも
に生きる感覚をスイジャクさせる
③ 歴史という
を感じと
る力を失ったとき、人は頽廃する
ローカルな世界で歴史を感じとり
大きな歴史を読みとっていた。
現在では
が弱体化している。
現代人は歴史のソウシツという
機に立たされている。
今日の課題のひとつは、どうした
歴史は失われた過去ではなく
・
されていく。
回歴史の記憶に照らして
をする。