そのときに、かぐや姫、「しばし待て。」と言ふ。「衣着せつる人は、心異になるなりといふ。ものひと言言ひ置くべきことありけり。」と言
ひて、文書く。天人、「遅し。」と、心もとながり@たまふ。かぐや姫、「もの知らぬこと、なUのたまひそ。」とて、いみじく静かに、おほや
けに御文6奉り6たまふ。慌てぬさまなり。
「かくあまたの人を賜ひて、とどめさせたまへど、許さぬ迎へ@まうで来て、取り率てまかりぬれば、ロ惜しく悲しきこと。宮仕へつかう
まつらずなりぬるも、かく煩はしき身にて@はべれば。心得ず思しめされつらめども。心強く承らずなりにしこと、なめげなる者に思しめし
とどめられぬるなむ、心にとまりはべりぬる。」
とて、
今はとて天の羽衣着る折ぞ君をあはれと思ひ出でける
とて、壷の薬添へて、頭中将呼び寄せて@奉らす
中将に、天人取りて伝ふ。中将取りつれば、ふと天の羽衣うち着せのたてまつりつれば、翁を、いとほし、かなしと思しつることも失せぬ。
この衣着つる人は、もの思ひなくなりにければ、車に乗りて、百人ばかり天人具して、昇りぬ。