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Step up
73 酵素の反応速度
■ステップアップ問題
典型的な酵素反応速度 Vは基質濃度が少ないと
きは基質濃度[S] に比例し、 基質濃度が十分高く
なると一定値 Vmax に達する(図1のA)。 このよう
な酵素反応速度Vは,下に示したミカエリス・メ
ンテンの式といわれる関係式で表される。
V.
V=
1+
Km (Km:ミカエリス定数)
[S]
反応速度〔V]
Vmax
A
B
12%
AOK BOOK
図1 酵素のミカエリス定数Kと反応
基質濃度[S]
ここで,Vmm はこの反応の最大の反応速度を表す。この式を見ると,基質濃
のみ依存していることが分かる。また,Km はミカエリス定数といわれるもので
1
Kmは反応速度が V me の一となる基質濃度を表しているが,①これは酵素と基質
max 2
和性の目安となるものと解釈されている。 さらに、このミカエリスメンテンの
際のデータを利用することで,この反応系における酵素と基質の親和性だけでなく
害剤による効果に関しても推測できる場合がある。 例えば、 コハク酸デヒドロゲー
の基質はコハク酸であるが,競争的阻害を引き起こす物質 (マロン酸)が反応系に
ると,Vmax に変化はないが,Kmが大きくなる, すなわち基質との親和性が低下す
とで判断することができる(図1のB)。 これは非競争
的阻害とは決定的に異なる特徴である。
(2)この阻害剤によってこの酵素反応は,どのような阻害を受けていると考えられる
か。 最も適切なものを次から1つ選べ。
(ア) この阻害剤によってVmax には影響がない
ので,非競争的阻害である。
(イ) この阻害剤によってVmax には影響がない
ので,競争的阻害である。
(ウ) この阻害剤によってKm には影響がないの
で,非競争的阻害である。
(エ) この阻害剤によってKm には影響がないの
で,競争的阻害である。
阻害剤なし
阻害剤あり
[S]
1/ [S] V 1/V V' I/V'
0.25 4.00 1.33 0.75 0.67 1.50
0.33 3.00 1.60 0.63 0.84 1.19
0.40 2.50 1.78 0.56 0.97 1.03
0.50 2.00 2.00 0.50 1.14 0.88
0.60 1.67 2.18 0.46 1.30 0.77
0.75 1.33 2.40. 0.42 1.50 0.67
1.00 1.00 2.67 0.38 1.78 0.56
[S] 基質濃度(相対値)
V 反応速度 (阻害剤なし 相対値)
V' 反応速度 (阻害剤あり 相対値)
(オ) この阻害剤によってVmax にも Km にも影響が出るので,競争的阻害とも非競争
的阻害ともいえない。
(15 芝浦工大 ・ 改)
知識確認
この問題の基本となる知識をおさえよう。
問2 競争的阻害では基質に似た物質が酵素の活性部位に結合することで阻害する
ので,基質濃度が高ければ阻害効果は小さい。 非競争的阻害では酵素の活性部
位以外の場所に阻害物質が結合して酵素と基質が結合できなくするので,基質
濃度が高くても阻害効果はあり、 反応速度は低下する。
考えてみよう 解説の空欄を埋めながら、 解法を考えてみよう。
また、ミカエリスメンテンの式において, 両辺をそ
れぞれ逆数にとると
1
1 KM
1
+
V
V
V
max
max
[S]
Vmax
1/[S] を, y 軸に1/Vをとってグラフ
を作成すると, 傾きが約 0.123 の比例
問3 (1) 阻害剤がない場合のグラフを1.6
表の数値を使って作成する。 x軸に
1.4-
1.2-
1.0-
1
1
となるので,
3
[S]
V
を軸としてグラフを描くこ
0.2
図2
2
3
となる。
1717
とにより, 容易にK や V を求めることができる (図2)。
問1 下線部 ①について、以下の説明文の空欄に入る適切な語句を選び, 記号で答え
ミカエリス定数が小さいと, 基質濃度が(① 高い ②低い)環境でも反応速度
Vmax に達することがB(①できる ②できない)から。
問2 下線部 ②について、以下の説明文の空欄に入る適切な語句を選び、記号で答え
基質の濃度を変化させB(①ても阻害の程度は変化しない ②ると阻害の程度は
非競争的阻害は, 酵素の基質に対する親和性に直接作用 (①する ②しない)の
する)。また,Vmax は c (①変化しない ②低下する)。
0.8-
のグラフ() になる。 x = 4, y = 0.75 0.6
を代入して方程式を立ててみると,y 0.4-
=0.123x+ ( ・・・ ① 式となる。 よ 0
ってx=0のときy = ( となり
その値が 1/V,
「max であるので,Vmax は約 (
(2)同様に阻害剤がある場合のグラフを表の数値を使って作成する。 x 軸に1/[S]
をy軸に1/V'をとってグラフを作成すると, 傾きが約0.313 の比例のグラ
フ () になる。 x=4,y=1.5を代入して方程式を立ててみると,y=0.313+
・・・ ②式となる。x=0のときy=( となり,その値が1/V であ
max
るので, V' は約 ( となり, 阻害剤なしの場合と
。
またy=0のときのxの値が-1/Kmであるので、1式 ②式よりKm を求めて
みる。
①式 0.123x+(
)=0 x=2.098
Km≒0.477
max
(相対値
②式 0.313x+(
)=0 x=-0.792
K = 1.263
問3 下線部 ③について, 表は阻害剤の存在 ・ 非存在下において,基質濃度とある
(1) 表の数値を用いて図2のようなグラフを作成し, 阻害剤がない場合のV
の反応速度 (相対値) の変化を対比させたものである。 次の(1),(2)に答えよ。
を求め,次の中から最も近い値を選べ。
( 3.0 4.0
5.0〕
阻害剤があってもなくても Vmaxに変わりがないが、Kには影響があり酵素
と基質の親和性が変化しているので、 (
と考えられる。
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第Ⅱ部 生命現象と物質