今は昔、摂津の国わたりより、盗みせむがために京に上りける男の
隠れて立てりけるに、 朱雀の方に人しげくありきければ、人の静ま
の方より人どものあまた来たる音のしければ、「それに③見えじ」
るに、④見れば、火ほのかにともしたり。
盗人、 「あやし」と⑤思ひて、連子よりのぞきければ、若き女の⑥
いみじく⑦老いたる嫗の白髪白きが、その死人の枕上にゐて、死人
盗人これを見るに、心も⑤得ねば、「これは、もし鬼にや⑨ あらむ
ある、脅して⑩試みむ」と思ひて、やはら戸を開けて、刀を抜きて、
麺、手惑ひをして手をすりて惑へば、盗人、 「こは何ぞのの、かくは
にて②おはしましつる人の失せ給へるを、あつかふ人のなければ、かく
ければ、それを を抜き
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