ふた
次の文章を読んで、後の問い(問1~7)に答えよ。(配点 50 )
きゆうかく
えいち
鼻は顔の先端であり中心である。なぜか。鼻は人間の智にとってはもっとも遠い存在であると同時に、人間の生命にとって
はもっとも近い存在であるから。それは識別する能力であるとともに呼吸の器官であるが、この二つは密接に結びついており、
したがってこの識別する能力すなわち嗅覚は肺臓と腎腑とに直接つながっている。したがってそれは本能のなかに根ざしてお
り、叡智的人間にとってはその端(ハナ)であり、末端であり、それゆえにまたもっとも大切でありながらもっとも脆弱な器官
として顔の中央に保護されてある、と同時に、直接生命のイジ安にかかわるがゆえに顔の先端として顔そのものに先行し、顔
の方向を、したがってまた人間の向く方向を導き決定するのである。
E
におい
めいりょう
ドアをあけて急に一つの部屋にはいった場合、われわれが最初に知覚するのは何であろうか。最初に活動する器官は何であろ
うか。明るすぎあるいは暗すぎる光線のなかに、眼は部屋のなかのものをすぐには見分けない。形や色が明瞭に見えてくるため
には時間がかかるのである。その部屋で交わされている人びとの言葉を耳はすぐには聞き分けない。言葉が聞き分けられ理解され
るためにはかなりの時間が必要である。これに対して鼻はその部屋のなかの匂をたちまち嗅ぐ。それは眼や耳による判断に先
立つ感覚であり、自己の安危に直接結びついた本能的な知覚である。部屋にはいるとき、われわれの身体のなかで最初に部屋に
はいるのは顔であるが、顔のなかでもまず鼻がはいるのである。鼻はつねに判断に先立っており、判断に先立った識別をわれわ
れは「におう」とか「くさい」とかいう言葉によって表すのである。しかし判断が力を得てくるに従ってこの識別は力を失う。いわ
ば眼と耳とが鼻に蓋をするのである。急に部屋にはいった人は、光線に眼が馴れるにしたがって次第に明瞭に室内の物の
ぜいじゃく