は次のように語った。
今から一年ほど前、自分が旅に出て汝水のほとりに泊まった夜のこと、一睡してから、
からだ
ふと目を覚ますと、戸外で誰かが我が名を呼んでいる。声に応じて外へ出てみると、声は
闇の中からしきりに自分を招く。覚えず、自分は声を追うて走り出した。無我夢中で駆け
ていくうちに、いつしか道は山林に入り、しかも、知らぬ間に自分は左右の手で地をつか
んで走っていた。何か身体中に力が満ち満ちたような感じで、軽々と岩石を跳び越えていっ
た。気がつくと、手先や肘のあたりに毛を生じているらしい。少し明るくなってから、谷
川に臨んで姿を映してみると、既に虎となっていた。自分は初め目を信じなかった。次に、
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