目的が。日本の代表的・
もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず」と彼
はるがすみ
くのほそ道』の冒頭に書いている。そして芭蕉はみちのくへと旅立つの
が、彼が向かったのはけっして“未知の国”ではなかった。そこは「耳20
ていまだめに見ぬさかひ」だった。つまり、まだ行ったことはないけれ
いろいろときかされている境であり、彼の目的は古来、歌にうたわれて
河の関を春霞の立ちこめるころ越えたい、松島の月をこの目でながめた
うことであった。おそらく芭蕉の心の内には、白河の関も、松島の月
でに美しいイメージとして鮮やかに描かれていたにちがいない。そのイ25
を実際に見、確認することが芭蕉の旅の動機だったのであり、目的でも
のだ。
もりもとてつろう
(森本哲郎「おくのほそ道行」より)