① ニッチという言葉がある。これはもともと生物学用語で“くぼみ”
を意味し、ある種が生態系の中で分担している持ち場のことをさす。
生物はニッチ間で、絶えず物質・エネルギー・情報のパスを繰り返し
ている。それはあるときは食う・食われるの緊張関係であり、また別
はいせつ
のときは呼気中の二酸化炭素を炭水化物に還元し、排泄物を浄化して
くれる相互依存関係でもある。つまりすべての生物は地球の循環のダ
イナミクス、すなわち動的平衡を支えるプレーヤーといえる。蚊やゴ
キブリのような「害虫」であっても、プレーヤーが急に消滅すること
一
ぜいじゃく
は、平衡を脆弱にし、乱すことに直結する。
かくらん
だから生物多様性を保全することはそれを攪乱した人間の当然の
責務である。しかし今、問題は、生物多様性を資源ととらえそれを囲
い込もうとする側と、自由なアクセスを制限されたくない側との対立
にすりかわっている。そもそも生物多様性とは人間の専有物だろうか。
③ まったくの否である。生命38億年の歴史において人間が現れたの
は多めに見積もっても、たかだかここ数百万年のこと。多様性はすで B
に作り出されたものとしてあり、彼らの蓄積の上に私たちの存在が成
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り立った。(中略)
私たちは、最後の瞬間にやってきた新参者であるにもかかわらず、
進化の歴史が膨大な時間をかけて作り上げたこの多様性を独り占めし
ようとしている。この企ては何をもたらすだろうか。 示準化石という。
ものがある。それが見つかることによって地層の地質年代を言い当て
ることができる化石のことである。三葉虫は古生代の、アンモナイト
は中生代の示準化石である。 示準化石には条件がある。現生しない生
物の化石であること。 分布領域が広く多数発見できること。短期間の
み栄えた生物であること。急速に専有を目指した種は、それゆえにこ*
そ急速に滅びに向かう。何億年か先、人類が[
となることは
間違いない。
* 古生代…約五億~二億五千万年前。 *中生代:
er.