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Water
ステップ1
2
1 小說
(注)
りょううん
「ボク」(凌雲)は、水泳部のキャプテンを務める高校三年生。全国大会をめざし、最後の県大会予選に臨んだ。
同じレースには、100メートル泳げるようになろうとともに特訓を続けてきた一年生の省吾の姿もあった。
一聖
Imm
2
50メートルのターンを切ったところであり余る力を感じた。先頭を泳いでいるのはたしかだった。 勢い
余って、今にも体が水面から飛び上がりそうな気さえする。
M
②
8
9
(注2)とっさ
==
(注1)
2 壁にゲキトツする勢いでゴールし、振り返って電光掲示板を見ると、一番上にボクのタイムがある。観
客席からみんなのカンセイが聞こえた。56秒9とうとうボクは、5秒の壁を破った。聖マリの田島の
記録には及ばなかったが、予選を二位で通過することになった。
ちょうどそのとき、観客席から笑い声が起こった。咄嗟に省吾のコースへ目を向けると、やっとターン
を終えた省吾が、ほとんど溺れているように泳いでくるのが見えた。ボクは慌ててプールを飛び出し、省
吾のコースへと駆け寄った。「泳ぎ終わった人はテントに戻って!」注意する係員の手をハラいのけ、 大
声で省吾に叫んだ。
「来い! ここまで来い!」来い、ここまで来い。ここまで来れば、俺がプールから引き上げてやる。お n
やつ
けと
前のことを笑った奴を一人残らず蹴飛ばしてやる!来い! ここまで来い!
E=
5 息継ぎの角度がどんどん空に向かっている。手と足のバランスがどんどん狂ってくる。水中でもがく省
吾の体はすぐそこまで来ていた。すぐそこまで………。
ゆが
R=
観客席での笑い声が、沈黙へと変わった。ボクの手を引っ張っていた係員の手に力が入るのがわかった。
水から上がる省吾の顔が、苦痛と希望とでぐにゃぐにゃに歪んでいる。
あと10メートル。ボクは目を瞑った。
つむ
いるのかもしれない。そこにおいて、私た
>=
のぞ
観客席から秋風のような拍手が聞こえる。 ゆっくりと目を開け、プールの中を覗き込むと、省吾の顔が
あった。生まれて初めて100メートルを泳ぎきった男の顔が、そこにあった。
(注3)あえ
息もできぬほど苦しいのだろう、声も出せずに「凌雲先輩」と口が動いた。喘ぐように、「最後まで泳いだ
よ。」と省吾が言った。ボクは泣くもんか、と思ったけど涙が流れて止まらなかった。
5
20
20
15
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