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ある。「なぜ」「どうして?」と
持ちながら読み進めよう。
理由説明
日秘密をもつということは、取りも直さず「これは私だけが知っている」という
ことなので、それは「私」という存在の独自性を証明することになる。秘密とい
うことが、アイデンティティの確立に深くかかわってくるのもこのためである。
少女のクローディアが「秘密」の獲得に強い熱意を示したのもこのためである。
2アイデンティディというのは不思議な言葉である。本気で考え出すと何のこと 5
か解らなくなってきたりするが、「私は私である」をいう、この単純な文章が、な
かなか人間には納得のいくものとして感じられにくい、ということをそれは反映一
しているのであろう。「父親アイデンティティ」とか、「職業アイデンティティ」な一
どという言葉があるように、たとえば、私が父親であることや大学教授であるこ
とに、私の存在の基礎を置いているとすると、それはあくまで自分以外の他人、m
子どもとか学生とかとの関連によって生じていることである。言うなれば、そ
れは自分のアイデンティティが他人の存在によっす末えられているのだから、も一
し、その他人がいなくなったり、そっぽを向いたりすると、たちまちにして、私
のアイデンティティは崩壊することになる。)
3これに対して、「私しか知らぬ秘密」は他人に依存していないので、アイデン "
ティティを支えるものとしては、真に素晴らしいものと言わねばならない。そ」
れでは、どうしてメアリは「秘密の花園」の存在をディッコンやコリンにまで打
ち明けたのであろうか。ラモーナはパジャマの秘密をラッジ先生と分け合うこと
に、なぜあれほど喜びを感じたのだろうか。(もっともそれを先生が両親に洩ら
したと思ったときは激怒したのだったが。)ここに、秘密ということ、アイデン "
ティティということの難しさが存在している。秘密は一人で保持していることに一
価値があるし、他人と共有することによって価値が上がるところもある。私は私一
が唯一無二の存在であることを確信したい反面、他の人々とも同じであるとも思
い注いのである。(中略)
ニクローディアの秘密』のなかで、クローディアは、「人が秘密をもってたとし
ても、その人が秘密をもってることをだれも知らないと、そのうちつまらなくなっ
ちゃうからよ。それで、その秘密が何かってことは人に知られたくないけど、せ
めて秘密をもってるってことくらい、人に知られたくなるのね」と言っている。
個総の扱いというものは、なかなか厄介なものである。れをいつまでも自分だ
げでもっていたいという気持ちと、誰かと共有したいという気持ちとの相克の間 m
に存在している。このことは、取りも直さず、アイデンティティというものが
あくまで自分だけに固有のものでありつつ、他の人々とのつながりのなかに存在」
しなければならぬというパラドックスをもつことと相応するものである、と思わ
れる。
* 語注4クローディア…小説『クローディアの秘密』の登場人物。
7メアリ,ディッコン·コリン…小説『秘密の花園」の登場人物。
12ラモーナ·ラッジ先生…小説『ラモーナとお母さん』の登場人物。
間 傍線部について、「厄介」であるのはなぜか。その理由説明として、最も適当なも
のを次から選べ。
ア 私だけの秘密を持つということは、アイデンティティの確立に深く関わること一
だが、同時に他者との共存を許さないということだから
ィ 秘密というものは、一人で保持していることに価値があるものだが、一方で、
他者と共有することで価値が増すものでもあるから。
ウ 秘密というものは、私が唯一無二の存在であることを証明してくれるものだ一
が、一方で、私を孤独に追い込むものでもあるから。
エ 私だけの秘密を持つということは、アイデンティティを支える際には有効だ」
が、他人と共存する際には障害となることだから
オ 秘密というものは、自分のアイデンティティを支える自分に固有のものであ」
り、それを持っていることを他人に知られたいものだから
(ステップ0
9
評論