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■C■獲得したエネルギーは生命活動にどのように利用される?
細胞内で有機物を分解して得られたエネルギーは, そのまま生
命活動に使われるのではなく, ATP(アデノシン三リン酸)という物
質に蓄えられる。 ATP は, 代謝におけるエネルギーの吸収・放出
の仲立ちをしている。 ATP は, すべての生物が共通してもつ物質
で,アデニンという塩基とリボースという糖が結合したアデノ
シンに,3個のリン酸が結合した構造をもつ(図5)。 ATP のリン
p.54
-p.70
酸どうしの結合には多くのエネルギーが蓄えられており,この結
さんけつごう
合は高エネルギーリン酸結合 とよばれる。 末端のリン酸が1つ
さん
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切り離されて, ADP (アデノシン二リン酸)とリン酸に分解されると
きに,多量のエネルギーが放出される (図6)。 このとき放出され
たエネルギーを用いて, 生物は生命活動を行っている。
また, ATP の分解によって生じたADPとリン酸は,呼吸 (異
化)などによって得られた化学エネルギーを吸収して結合し,再度
ATPになって利用される。
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このように, ATPはエネルギーの受け渡しの役割を担っており,
「エネルギーの通貨」 にたとえられる。
ATP|
有機物
呼吸
エネルギー
エネルギー
無機物
図6 ATPとエネルギーの利用
CLU
Keyword
独立栄養生物 autotroph
従属栄養生物 heterotroph
ATP adenosine triphosphate
高エネルギーリン酸結合
high-energy phosphate bond
ADP adenosine diphosphate
① 炭水化物のこと。
高エネルギーリン酸結合
アデニン
P
P
・リン酸
ADP
O MN
それぞれの器官のATP 消費量
ヒトの体内では,たえずATPが消費され, 生命活動が維持され
ている。 図a は、安静時のヒトの器官におけるATP消費量の割合
を示したものである。 肝臓の重量は体重の約2% にすぎないが,代
謝がさかんであるため, ATP消費量は全体の21%を占める。 心臓
における ATP消費量は,安静時には 9% だが, 運動などで呼吸が
さかんになると安静時の2倍のATPが必要になる。 筋肉も運動時
には ATP消費量が飛躍的に増大する最大のエネルギー消費器官で
ある。
リボース
アデノシン
300μm
図5 ATP の構造と結晶
さまざまな
生命活動
運動 ( 筋収縮)
腎臓
8%
物質の合成
その他
20%
OM
発電
筋肉
22%
肝臓
心臓
21%
9% 脳
20%
図 器官別 ATP消費量
出典p.208
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章
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