雨漏りの音
ながしま
長嶋有
あかね はると
見取り図の下部の「雨漏りする箇所あり」という特記事項に、茜と晴人はまる
で異なる反応を同時にみせた。
「え、それはちょっと。
「へぇー」
二人とも、具体的な好悪の言葉は続かなかったが、へぇーと感心した茜は内心
しくじったと思った。 間違えた、そこは「それはちょっと。が正しい反応だ。
家の雨漏りは欠陥であり、よくないこと。 楽しい、ワクワクする「装置」では
ない。
「築年の古い家ですから。 でも、修理はきくと思いますよ。 軽自動車のハンド
は腕組みをして顔をあげた。もとよりリフォーム前提で検討している物件だった
が、雨漏りはさらに費用がかさむ案件だ。
茜の暮らした実家は最近のリフォームまで雨が漏っていた。そう告げると、晴
人の眉間にしわが寄る。やはり、雨漏りに対する反応の正解はそっちだった。
「そういえばたしかに去年、お伺いするときに言ってたっけ、『最近まで雨漏り
してたんだ。って。
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「うん。
「その『最近』っていつのこと、平成になっても雨漏ってた?」
「うん、漏る漏る…いや、漏った漏った。二年くらい前まで。 今度は眉間に
しわではなく、うわあ、と純粋に驚く顔。
「え、あの家って、そんなに古かったっけ。
「いや、だって、晴人が来たときはリフォーム後だから。
と。
晴人を連れて帰省したとき、茜は内心驚いていたのだ。きれいになった!
エンジンのかかる音がして顔を前に向けると、軽自動車が青信号になった十字
路を直進した。これも「最近」だ。アイドリングストップ機能で、停車が長いと
2 小説 1 雨漏りの音
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ゆう
「そっち」とは、どう
いう反応を指すか。
「これ」とは、何を指
すか。
n 1 アイドリングストップ
機能 自動車の停止時
にエンジンを自動的に
切り、発進時にエンジ
ンを再始動させる機能。
+ 費用がかさむ
好悪闘善悪・悪い
感心 関心・歓心
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