第3問 次の文章は「源氏物語』「幻」巻の一節で、光源氏が最愛の妻である紫の上に先立たれて寂しく過ごしているところに、
息子である大将の君が見舞いに訪れた場面である。これを読んで、後の問い (問1~5)に答えよ。 (配点 50 )
くもま
な
はなたちばな
(注2)
⑦さうざうしきに、十余日の月はなやかにさし出でたる雲間のめづら
五月雨はいとどながめ暮らし給ふよりほかのことなく、
しきに、大将の君、御前にさぶらひ給ふ。花 橘の月影にいときはやかに見ゆる、かをりも追ひ風なつかしければ、「千代を馴ら
せる声もせなむ」と待たるるほどに、にはかに立ち出づるむら雲のけしきいとあやにくにて、いとおどろおどろしう降りくる
雨に添ひて、さと吹く風に灯籠も吹きまどはして空暗き心地するに、「窓を打つ声」など、めづらしからぬ古言をうち誦じ給へ
ふるごと
るからにや妹が垣根におとなはせまほしき御声なり。
をのこ
「ひとり住みは、ことに変はることなけれど、あやしうさうざうしくこそありけれ。深き山住みせむにも、かくて身を馴らは
したらむは、こよなう心澄みぬべきわざなりけり」などのたまひて、「女房、ここにくだものなどまゐらせよ。男ども召さむも
ことごとしきほどなり」などのたまふ。心にはただ空をながめ給ふ御気色の尽きせず心苦しければ、「かくのみ思し紛れずは、
(注6)
御行ひにも心澄まし給はむことかたくや」と、見たてまつり給ふ。「ほのかに見し御面影だに忘れがたしましてことわりぞ
かし」と思ひ給へり。
(注5)
おぼ
「昨日今日と思ひ給ふるほどに、御果てもやうやう近うなり侍りにけり。いかやうにか掟て思し召すらむ」と申し給へば、「何
ばかり世の常ならぬ事をかはものせむかの心ざしおかれたる極楽の曼陀羅など、 このたびなむ供養ずべき。経などもあまたあ
(注8) まんだら
りけるを、なにがし僧都、皆その心くはしく聞きおきたなれば、また加へてすべき事どもも、かの僧都の言はむに従ひてなむも
(注9)
のすべき」などのたまふ。「かやうの事、もとよりとりたてて思し掟てけるは、うしろやすきわざなれど、この世にはかりそ
めの御契りなりけりと見え給ふには、形見といふばかり留め聞こえ給へる人だにものし給はぬこそ、口惜しう侍れ」と申し給へ
ば、「それは、彼ならず命長き人々にも、さやうなる事のおほかた少なかりける、みづからの口惜しさにこそ。そこにこそは
第2回
たま
(23)
(注3)
おき