ト的な
本文全
記号で答え
ゆるできごとを
◆読み比べ
史学相
ev.
考えの の基礎
しょうぞう
「野家氏の見解の哲学的基礎は、大森荘蔵氏の「過去とは
「想起なり」という有名な命題(これを過去想起説と言う)でい
ある。大森氏によれば、過去は知覚できないのだから、過去
は想起されるだけなのだと言う。この説が歴史学に当てはま
るならば、野家氏の言うように、過去の事実は想起され物語っ
られるだけだという、物語り論的歴史理解が成り立つであろ
う。しかしながら、われわれが事実の種類を弁別したときに
すでに明らかにしたように、構造史上の事実をはじめとする
「揺らがない」事実は、この過去想起説に当てはまらないの
である。
歴史の見
一見すると、大森=野家説の言うように、われわれは過去
を直接に知覚することはできないように見える。しかしなが
野家 二七一ページ参照。
2 大森藏 一九二一年~一九九七年。哲学者。
3 構造史 歴史を物語りによってではなく表れてくる構造によって明
らかにする記述方法。
こうゆう
論理的な文章読み比べ◆ 史学概論
3
かたられること
ら、例えば、一九二〇年十月一日現在の日本の第一回国勢調
?査の結果だの、一九四九年一月二十三日の日本の総選挙にお
ける各党の候補者の得票数だの、といった過去のデータ(
実)は、その時点で知覚された事実を調査者が記録したもの
であり、そこには、若干の誤差があるとしても、調査者(史
料記述者)の想起だの解釈だの再構成だのが介入する余地は
ない。換言すれば、これらのデータは、後になって想起され
たものではなくて、過去のある時点で直接に知覚された事実
であり、その事実が、そのまま、現在のわれわれに提供され
ているのである。そして、このことは、時代を遡って、十六
世紀の市場価格表だの、十七世紀の小教区帳簿だの、十八世
紀の課税台帳だの小作契約書だの遺産目録だのに記載された
4 国勢調査 政府が五年に一度実施する、人口や世帯の実態調査。
5 データ 四三ページ注3参照。
6 小教区 キリスト教で、布教などのために設けられた区域。
7小作地主から土地を借りて地代を支払い、耕作する仕組み。
Ind
alini
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