*旅する力
J 4う
旅する力
旅をしている中で摩擦が起きる。それはその国の言葉を話すことのできない私のせい
だと自覚していた。その国に住んでいる人は、その国の言葉がしゃべれればいいのだ
訪れた国で快適に過ごそうと思うなら、旅人がその国の言葉を話さなくてはならない。
私も旅先で言葉がしゃべれないため摩擦を起こすたびに腹を立てたりしたが、根底の
「人間の力としての背
丈」とは、どういうも
のか。
ところではそれは自分のせいなのだと思っていた。
言葉の問題だけでなく、旅は自分の力の不足を教えてくれる。比験的にいえば、自分
の背丈を示してくれるのだ。私の肉体的な背の高さは、他国の同じ世代の旅人に劣るこ
とはなかった。しかし、人間の力としての背丈が足りなかった。
- AINイマー climber
(英語)。登山家。
2 山野井泰史 1九六五~
m コKLIN リストラク
チHトコンA(restruc-
turing 細)の略。 経岡
営立て直し。ここでは
その一環としての解雇
を指す
この自分の背丈を知るということは、まさに旅の効用の一つなのだ。
Nを 6 やャ-
あるとき、クライマーの山野井泰史氏と対談していて、サラリーマンがリストラに遭 9
ってしまったり、会社が倒産してしまったりというようなことがあった場合、多くの人
が動揺して立ちすくんでしまうのはどうしてだろうという話が出てきた。そのとき、私
たち二人が一致したのは、「問題は予期しないことが起きるということを予期していな
いところにあるのではないか。」ということだった。サラリーマンだけでなく、人間が
生きていくうえでは、予期しないことが起きるということを予期しているかどうかとい
うことが、とても重要になってくる。
N
山を登るとき、クライマーはさまざまなことを予測する。天候の変化についての予測
を立て、登ろうとしているルートのシミュレーションもする。この斜面を登るときには
4 シミュDーシ ョン
simulation(継語)民
実に想定される場面の
モデルを作り、それを一
使って実験·分析を行」
どうしたらいいかなどということを、写真や文書による情報だけでなく、麓からの目視
による状況の読み取りといったものによっても予測する。しかし、実際に登ってみると、
思いもよらないこと、例えば下からでは見えなかった大きなこぶがあったり、へこみが
あったり、あるいはツルツルで手や足が掛からないところが出てきたりという局面に遭」
週する。そのとき、「あっ、予期しなかったことが起きてしまった!」と動揺するので
はなく、まず「こういうことは常に起きうることなんだ。」と思うことが、予期しない
ことに対処する力を引き出す第一歩になるのだ。
離 比験 背丈
安田 編 森画 目視
配岡 県題
例えば、旅をしていて、誰かと知り合う。そう、外国を旅していて外国人に「家に来 5
ないか。」と誘われたとしようか。さあ、そのときどうするか
ト
*立ちすくむ