彼は明るくふるまっているけれど、内心はなれなれしく接してくる人間におぞけをふるっていて、彼の恐
怖のにおいを無意識にかぎつけた子たちが興奮して寄り集まる。
初めてそれに気づいたのは散々クラスメイトにかまわれたあと一人きりになった彼とすれ違ったときに聞
こえた大きなため息。 セクハラ上司に耐える新米女性社員みたいに、可憐で憂鬱そうなため息だった。だか 20
私はイチに話しかけない、だれにでもなれなれしくされるイチに、私はほかの子とは違うと思ってもらう
ために。イチに関心があることはイチ本人にも周りにもばれてはいけない、ばれたら他の子たちと同じになっ
てしまう。昼休みに自分の席に座ったまま、ただひたすら彼を視野見で見るだけ。
視野見とはイチを見たいけれど見ていることに気づかれないためにあみ出した技で、黒板やら掃除道具入
れのちりとりやらを眺めているふりをして、ほんとは視界の隅に入っているイチに意識を集中させる。目の20
血管が切れそうになる複雑な作業だけれど、視界の隅でちらちら動くイチを本人に気づかれずに観察できる
のは昼休みの一番の楽しみ。 友達と話しているとき笑うイチの上向いたとがった顎、友達に追いかけられて
いるときに跳ねる彼の重たげな髪。イチは昼休みは運動場が使えると友達とサッカーをするから、教室で私
が視野見できる日は雨の日ばかりで、そのせいかイチの記憶は、雨の音と教室の窓から見えるどんよりした
くもり空とセットになっている。
範囲
二学期になると視野見では飽きたらず昼休みにはイチを主役にしたマンガを描き始めた。 一話完結型のス
びんしょう
トーリーマンガ「天然王子」は元気で敏捷そうな王子がときどき城を抜け出しては身分を隠して村の人々の
悩みを聞き、周囲に聞き込みをしたり探偵みたいに調査して、諸悪の根源を見つけ出しては王子の権限をふ
りかざして懲らしめる話だ。桜吹雪の入れ墨を入れたちょんまげも印籠携帯じいさんの存在もよく知らない
うちに、私は無意識に日本人のDNAの濃さを露呈していた。クラスにはほかにもマンガ描きの女子がいて、3
彼女のマンガはクラスの子たちを登場人物にしたギャグマンガで画力も高くて、彼女の周りはマンガを読む
子たちであふれていたけれど、私の机の周りは閑散としていた。嫉妬したけれど、でも彼女が自分で空想の
キャラクターを作り上げてそれに実際の人物の面影を投影するなんていうややこしいことはやらずに、クラ
スメイトそのものをキャラにしたおかげで、だれも天然王子がイチだとは気づかなかった。
など
あ
描き終わったノートが一冊二冊とたまり"巻"になっていくうちに私にも徐々に読者がついた。一番人気
出すこ
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