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次の文章は、帝が見初めた女性を探す蔵人が、彼女を見つけた場面の続きである。これを読んで、
後の問に答えよ。
a.
この女ども、ひと車にて帰るめり。蔵人、我が身はまたあやしまれじ、と思ひて、さかさかしき女
をつけて、見入れさすれば、 三条白河に、なにがしの少将といふ人の家なり。
このよしを奏すれば、やがて御文あり
「あたに見し夢かうづつかくれ竹のおきふしわぶる恋ぞ苦しき
この暮にかならず」
とばかりあり
蔵人、御文をたまはりて、かの所に持て行くに/男ある人なれば、わづらはしうて嘆くに、御使は
心もなく、御返しをせむれば、いかにもかくれあらじと思ひて、ありのままに語れば、少将、さすが
にわづらはしげに思ひて、「男の身にて、左右なく参らせむもはばかりあり。あなかま、といさめむ
N
も、びんなかるべきことなり。人によりてことごとなる世なれば、ひとつは名聞なり。 人のそしりは、
さもあらばあれ。とくとく参り給へ」とすすむれば、うち泣きて、かなふまじきよし、返す返すいな
の。
び申せば、少将申しけるは、「この三年がほど、おろかならず思ひかはして過ぎぬるも、世々の契り
なるべし。いままた、召され給ふも浅からぬ御契りならむかし。やうやうしくて、参り給はずは、定
めて悪しざまなることにて、我が身も置き所なきことにもなりぬべし。よも悪しくははからひ申さじ。
とくとく参り給へ」と返す返すすすめければ、女、うち涙ぐみて、御文をひろげて見るに、「この暮
にかならず」とある文字の下に、「を」といふ文字をただひとつ、墨黒に書きて、もとのやうにして
御使に参らせけり
たが
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御文、もとのやうにて違はぬを御覧じて、むなしく帰りたるよ、と本意なくおぼしめすに、結び目
のしどけなければ、あけて御覧ずるに、この「を」文字あり。とかく御思案あれども、御心もめぐら