十七世紀、ニュートンの物理学によって確立された近代科学は、世界観、宇宙観に大き
|な転換をもたらした。
ニュートンは、力学の三つの基本法則と「万有引力の法則」によって、宇宙に存在する
|すべての物体の運動を厳密に記述することに成功した。この宇宙に起こるすべての現象は
|すべてこのような基本法則によって記述することができ、そうしてそのような基本法則が
|不変である限り、現在の状態を厳密に観測すれば、いくらでも過去の状態をさかのぼって
|知ることができ、また未来も正確に予測することができると考えられた。
ニュートンの宇宙では、すべては厳密に数学的に記述される基本法則によって、無限の
|過去から無限の未来まで決定されており、それには「偶然」のようなものが入る余地はま
ったくない。すべては必然である。
り盤N(o)
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二十世紀末にかけて出現した「ポストモダニズム」は、科学的必然性によって支配され
|る世界を「脱構」しようとしている。しかし、「客観的必然性」の専制に対する反逆が
|主観性の一方的な強調や、合理性そのものの否定、神秘主義や宿命論への逃避に通じてし
|まうのでは、近代合理主義や近代科学の成果をすべて否定してしまうことになる。「偶然」
の問題をどう扱うかは、そこで一つの重要なポイントとなるはずである。
現代科学の示す宇宙像は、ニュートン流の機械的な必然性に貫かれたものではない。(必
|然と偶然が本質的に相互に絡み合ったダイナミックな世界である。それは本質的に予測不
可能な、したがって新しいものが生まれ、またあるものは永遠に消滅する世界である。
大は宇宙全体から、地球上の生物界、そして人間の作る社会の歴史まで、すべてそのよ
|うなダイナミックな世界なのである。そうしてその中で、偶然は必然に対する邪魔物では
S
なく、世界を作り出す本質的な要素である。
偶然は一人一人の人間にとっても未知の未来を作り出す。それば「暗黒の未来」ではな
「魅惑に満ちた驚異の未来」であると期待してもよいのである。
偶然は多様であり、その多様なあり方をどのように理解し、それとどのように取り組む
かが二十一世紀の大きな課題である。