3 「アメリカ」という、いまの世界でもっとも有名な名前がある。これは誰もが知るように、コロン
ブスの冒険によって「発見」された大陸に、ヨーロッパ人がつけた名前である。当初はそれは、ヨーロ
ッパ人にとって見慣れぬ人種の住む、しかし魅惑に満ちた未知の天地を指していた。けれども、やがて
それはヨーロッパ人が移り住む「新世界」を指す呼称となる。 まり すでに存在していて「発見」さ
れたものにつけられた名前は、いつの間にか、そこに新たに作り出されるひとつの世界の名前になっ
たのである。そのとき、命名は②ひとつの設定行為へと変化する。
"の認識を別の
4 そのように設定されたものとしての「アメリカ」は、一六世紀以前にはまったく存在しなかった。
にもかかわらず、たとえば考古学が「アメリカの先史時代」などを語って憚らないのは、この名の示す
内実のすりかわりに無頓着だからである。けれどもまた、この名が何かを設定したということも、名前
が大地(大陸)の存在にもたれかかっているために見えにくくなる。そのうえひとたび名前が流通し
だすと、人はその名のもとに物事をすでに存在するものとして語るようになり、名づけの重大さは忘
れられてしまう。とりわけ、その名づけが何をなし、何を創始したのかは、名前の流通によってかき消
される。