FUJ
*19よしやうほ
*2
呂 尚 父が妻、家貧しきを住みわびて、離れにけり。呂尚父、王の師となりていみじかりけ
きた
をけ
る時、かの妻帰り来りて、もとのごとく有らんことを望む。その時、呂尚父桶をひとつ取り出
だして、「これに水入れよ」と言ふままに入れつ。「こぼせ」と言へば、こぼしてけり。さて、
「もとのやうに返し入れよ」と言ふ時に、妻笑ひて、 「土にこぼれぬる水、いかでか
返
し入れ
なんぢ
で
ん」と答ふ。呂尚父曰はく、「汝我にえんつきし事、桶の水をこぼせるがごとし。今更いか
か帰り住まん」 とぞ言ひける。
じっきんしょう
(『十訓抄』)
CA*
いまさら