くろかわいほ
黒川伊保子/
恋するコンピュータ
AIに関する記事
読解 人間の記憶のメカニズムに迫る
課題 キーワードから論の展開をつかむ
現在のコンピュータは、どんなに大きな記憶容量を用意しても、必ず物理的な臨界点がやってきて、ある限界
(注1)
量以上の記憶を保証しません。けれど、ヒトの脳は、新しい記憶を拒絶するということは決してしないのです。
コンピュータの記憶とヒトの記憶の大きな違いは、抽象化と階層化と忘却にあります。 現在のコンピュータは、
データという具象情報をそのままひたすら貯めていきます。たとえ陳腐化してしまったデータでも勝手に忘れる
ことはしません(し、許されません)。
(注2)
た
これに対し、ヒトの脳は新しい認識を記憶するとき、キソンの知識になぞらえて抽象化し、さらに使われる頻
度に従って階層化して整理してしまいます。 そして、 陳腐化してしまった記憶を要領よく忘れていきます(し、 そ
れが許されるのです)。
たとえば、生まれてから今までの間に食べたアイスクリームをすべて思い出しなさい、と言われて、思い出せ
ますか? 冷たくてなめらかでクリーミーな、このミワク的な食べ物。食べている瞬間の幸福は、アイスクリー m
ムという名前でくくられて整理されてしまうと、よほどの付帯情報のある特別な認識でないかぎり、具象の記憶
として長く残ることは難しいのです。
きっと、物心ついてから初めてアイスクリームを口にする人がいたとしたら、何とも言えないバニラの風味や
舌触りをすべて焼きつけるように記憶してしまうでしょう。 匂い、味、舌触り、ビジュアルな情報、食べるにい
たったシチュエーションなど、かなりの量の記憶領域が充てられることになります。けれど何度めかからは、「ア556
イスクリーム。で、抹茶味」程度の簡単な認識になり、当然この認識にまつわる記憶も簡素になります。たいて
いの場合、こういう簡素な記憶は、短期間で消えてしまいます。
ところで、現在のコンピュータにも、圧縮の技術があります。
てしまうとか、画像データの一部を抽象化してしまうなどの技術でかなり記憶効率を上げていきます。けれども、
たとえば頻出する文字列のパターンを記号化し
これは、ある限定された範囲のデータに対して、人が精巧にプログラミングした結果もたらされる効果であって、20
ヒトの脳のように、新しい種類の認識に対しても、難なく最適な圧縮が行われるようなしくみは、まだ発明され
しいません。
ヒトの脳の圧縮の秘密は、言葉にあります。ある認識ユニットに名称をつけたら、次に出会うルイジの認識ユ
この言葉のもとに「丸め」られてしまいます。 先ほどのアイスクリームのように。
「丸める」というのは、コンピュータ技術者用語です。
コンピュータで計算を行うとき、無限
とは事実上無理ですから、ある桁数で切って、
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16
評論/
実用文書
けたすう
(注3)
"T
31
5
(注)
2具象
臨界点ここでは、「限界点」の意。
形をもっていること。ここ
では「具体的な」くらいの意味。
3ユニット―――まとまり。
4フィギュアー図形。
5 テイスト
味わい。風味。
6横展開―ある事柄を、発展的に他
に適応させること。
7センテンス――文。
8 「黒川さん、DBインタフェース・・・」
――ここでは、筆者と同僚が仕事
に関するやりとりをしている。
【要旨】をつかむために!
理解を深めよう
【各1点】
要約のための確認
〇話題と主張
コンピュータ・ヒト
1110
抽象化
○筆者の注目している点
忘却
陳腐な記憶を忘れる
簡素な記憶に
圧縮
・・・秘密は
・抽象化
→大きな違い
し忘却
にある
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