いとき、必ずしもそれは消極的な意見を表しているのではないのかもしれない。それこそ
が擬似群衆に特有の態度であるかもしれない。
S
のような特徴を潜在させてレンズの前に立ち現れる人間たちは、かつてとは違った装
いをしているのだろうか。歴史上さまざまな群衆が記録されてきたが、ポスト情報化社会
を形成する最大の群衆は、目に見えないのではないか。それを一言で表すならば、「待機
する群衆」ではないかと思う。都市だけではない。地球上のどこにいても、情報システム
を通じてつながっている群衆は、常に何かを待っている。たとえば労働の場において、非
正規社員や移民労働者の不当解雇が世界規模の問題となっているが、それは見方を変える
と、常に待機することを余儀なくされる人々が爆発的に増大しているということではない
かと思うのである。
てのひら
彼女や彼は、掌の小さな画面を見つめながら、何かを待っている。待つ群衆がいかなる
力を潜在させているのか、それが見えてくるかどうかは、芸術にとっても政治にとっても、
無視のできないテーマになるであろう。
5
5