推
雅之君はこの木のすぐそばで、ヒルガオの群落を
いた。梅雨にもかかわらず抜けるような空となった日曜日の昼下がりだった。
縦横無尽に伸びたヒルガオの夢は蔑みを覆うように巻いていて、たくさんの真
珠色の花を付けていた。
じゅんすい
実はその時、雅之君は画板を抱えながらも絵が描けないでいた。ヒルガオの
花が純粋な白ではないということはわかっていたが、限りなく白に近いその輝
きを市販の絵の具でどう作っていくのか、その一点にこだわるあまり、前に進
めなくなっていたのだ。白をベースに暖色系をわずかずつ混ぜてみたが、画用
紙にのせると明らかに違う色になってしまう。どうしたものだろうと絵の具を
見比べているうち、「おーい」と声がかかった。バンさんは笑いながら雅之君
の横にきて、「何を描いてるんだ?」と覗き込んだ。だが箸をとめ
雅之君は正直に答えた。目の前のヒルガオを描こうとしていること。でも、
花びらの色が出せそうにないこと。
バンさんは「ほう」と納得したような顔になり、しばらく雅之君のすること
を見ていた。
じ色にしなくたっていいんじゃないか」
LUETO, ber
まさゆき
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