TOME
NO!
例題
P.109
理由説明
① 因果関係を説明する
技術哲学の展望
村田純一
設問で「どう
れるのが〈理由説明〉でお
傍線部の原因・理由> となる内容を一
から読み取り、それを「~から(のでた
め)」という形で答える。この例題のよう
に、原因と結果の関係 (因果関係)〉を答
えるパターンである。これが 〈理由説明〉
の基本となる。
現実の状況というのは、多くの要因が絡み合った多様性を示すので、 人工物が用いられる場合に、必ずしも常に一義的な仕方で
使用の仕方が実現するとは限らない。しばしば、道具を設計したデザイナーの意図と反するような仕方で道具が使用されたり、あ
るいは、ある状況での道具の使用を介して道具に全く新たな目的が付加されるということも起きる。やや極端な例ではあるが、金
は状況に応じて、本来の目的のほかに、人に危害を加えるためにも、ものを押さえるためにも、あるいは、芸術作品として用い
られることもある。どのような人工物も、程度の違いはあれ、このような多次元性をもっているし、しかも、技術の歴史はこの種
の事例で満ちているともいえる。
の上に昔から生きつづけ
例えば、一七世紀から一八世紀にかけてヨーロッパから多数の機械時計が中国に輸入された。それらはおもに交易を求めたヨー
ロッパ人が中国の皇帝に献上品として運んできたものである。当時の中国は古来の不定時法を採用していたので、機械時計は実際
の生活に役立つものではなかった。にもかかわらず、多数の時計が持ち込まれたのは、芸術作品、ないし、玩具として、おもに宮
延に関係する人々にとっての鑑賞の対象になっていたからである。この例は、技術的人工物が異なった文化的脈絡のなかで用いら
100
場合には、あらためて「解釈」される必要のあることを示しており、その意味で、異なった文化のあいだで発揮される人工物
に備わる「解釈の柔軟性」を示しているということができる。
制作された最初の目的や機能とは異なった仕方で技術が「解釈」されるようになる可能性は、二〇世紀の技術の場合にも決して
珍しいわけではない。インターネットが典型例の一つである。よく知られているようにインターネット技術のもともとの起源は軍
事的領域にあったが、現在では日常生活の新たなコミュニケーションの形態を作り上げることになった。自動車の技術もこの例に
めることができる。ベンジやダイムラーらが自動車を発明する以前に、あるいは、フォードがT型フォードを開発し、自動車が
大量生産されるようになる以前に、馬車より速い乗り物がないことは「問題」ではなかったし、馬車より速い乗り物に対する強い
社会的な需要があったわけでもない。例えば、アメリカでは、自動車は最初は都市部の富裕階級によっておもに娯楽のために用い
られる乗り物として登場した。農村部では、自動車は馬車による交通の邪魔になり、家畜に被害をもたらし、道路を破壊するやっ
かいものでしかなく、「悪魔の乗り物」 (devil wagon) と呼ばれ、嫌われた。自動車が農村部での日常的使用にも耐えるようなデ
ザインに改良され、広く普及されるようになってはじめて、つまり、自動車によって移動することが自明化し、日常的な価値基準
の一つとなってはじめて、一般に自動車が存在しないことが「問題」と見なされるようになったのである。
点で技術の創造性が発揮された例と考えられる。
これらは、既存の目的手段―連関が、技術の展開のなかで変換され、新たな目的手段連関を形成することになったという
こうした事例に加えて、技術の歴史のなかには、意図に反した結果がもっぱら「否定的」に解される事例も豊富に見出される。
例えば、E・テナーは「逆襲するテクノロジー』のなかで、オフィスのネットワーク化は紙でコピーを取ることを不要にするだろ
うという未来学者の予言に反して、現在のオフィスは紙であふれているという事態、あるいは、ある地域で安価なセキュリティ
システムの導入がなされたが、それによって誤作動や誤報が多くなったために、かえって前よりもセキュリティのレヴェルを下げ
ることになってしまったといった事例をあげて、「モノが反撃しているように見える」と述べている。
これらの事例は、技術が単なる道具に還元できない「他者性」を持つことを印象深く示している。ただし、ここで示されている
他者性は、広い意味で「創造性」ということのできる特徴である。というのも、これらの事例で示されているのは、技術の展開が
デザイナーや製作者の意図に反して実現する過程であり、そしてこの過程はポジティヴに評価されるにせよネガティヴに評価され
るにせよ、いずれにせよ、人工物が新たな意味を獲得する過程だと考えることができるからである。
で説明せよ。
傍線部「馬車より速い乗り物に対する強い社会的な需要」がアメリカで生まれたのはどうしてか、本文に即
90