三次の文章を読んで、あとの問いに答えよ。
「夕焼けっていなかったんですか?」
先生は一瞬
先生はきょとんとして「いないいない。」と言った。
夕焼けの空を描いた絵もあるだろうと思っていた。じつを言うと、それがヒロシの第二候補くもり空の絵がうまく描けなかっ
たら、そっちにするつもりだったのだ。
でも、先生は「だって、思いだしてごらん。」と言った。 「ポスターのキャッチコピーは〈大空にはばたく第三小〉 っていう言葉な
のよっ夕方になって、日が暮れそうになる頃にはばたくのって、ちょっとヘンでしょ。」
そうかなあ・・・・・・でも、口答えだと思われて叱られるのもイヤだから、「あと、夜の絵もなかったんですか?」と聞いた。「満月のお
月さまとか、星空とか。」
になって、ブッとふきだした。
「やだあ、コウモリやフクロウじゃないんだから。」
みやざわん
ぎん が てつどう
まる
夜にはばたくのもヘンなのだろう。ヒロシは、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」みたいに、列車が夜空を走っている絵もいいな、と思っ
ていたのだけど。
「まあ、ヒロシくんがどうしてもこの絵を出したいっていうんだったら、もちろんいいわよ。」
先生はそう言って、「でも、これだと、ポスターには選ばれないと思うわよ。」と続けた。 「絵としては確かに上手だけど、みんなの
投票の多数決で決めるんだから。」
みんなはこの絵を選ばない――。
ほんと?
くもった空をきれいだとは思わない。
先生は画用紙の裏にスタンプをおした。
「とりあえず、これで受け付けにするけど、もしヒロシくんがやっぱり描き直したいと思ったら、いつでも遠慮なく言ってね。 提出
期限まであと一週間あるんだから。」
ヒロシは黙って、首を小さく前に倒した。 うなずいたのか、うなだれたのか、自分
次の日から、ヒロシは一日に何度も空を見上げた。
晴れた日もあった。くもりの日もあった。雨の日もあった。もうじき終わる冬の名残で、雪が舞う日もあった。
朝の空も見た。昼間の空も見た。夕方の空も見たし、夜の空も見た。夜中にトイレで起きたついでに窓のカーテンを開けて眺めた
空は、月が出ていたので、想像していたよりずっと明るかった。お母さんに夜明け前に起こしてもらって、 朝日が昇る空も見た。
いろいろな空がある。 どれも、きれいだった。
でも、やっぱり、いちばんきれいなのは――。