きり
と
春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外の面の草に日の入る夕
はくしゅう
しょうちょう
巻頭のこの一首は、白秋の歌に対する思いを、象徴してい
るかのようだ。〈A よ、おまえは鳴かなくていい。いや、
むしろ鳴くことなかれ。私はおまえの鳴き声ではなく、おま
えを包み、鳴かせようとする夕ぐれのその気配をこそ歌にし
たいのだ。〉そんな短歌観を宣言しているように思われる。
「桐の花とカステラ」の中の「私には鳴いてる小鳥のしらべ
よりもその小鳥をそそのかして鳴かしめるまでにいたる周囲
とら
のなんとなき空気の捉へがたい色やにほひがなつかしいの
ひび
だ」ということばとそれは響きあう。
めい
昔、理科の時間に、空気の動きを観察する実験があった。
どうやってその流れを追うかというと、透明な箱の中に煙を
いれて、その煙の動きを空気の動きとして観察するのである。
煙とは物理的に言うと固体で、細かい粒であるらしい。それ
を、気体である空気にくっつける。
つぶ
むり
ゆふべ
白秋の歌のことばも、その B の粒のようなものでは
たわら
まち
ないだろうかと思う。
なみだ
(俵万智 『りんごの涙』)