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漢字の読み書き·語句の意味·文の組み立て·解釈 )
次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
(岩手、改)
待ちかねてあけるお弁当なら、愉しくておいしいにきまってい
るけれど、たべなくても承知している味もある。おなかは減って
いてたべたいのだけれど弁当は持っていない、持っていないとは
体裁がわるくて人に言えないから、痩我慢に「腹痛で絶食だ」な
どとごまかす。
私はいわば自分の甲斐性なし意気地なし、あるいは、かがまま
というべきものから、弁当なしをケイケンした。つまり朝早く起
きられないのである。弁当をつめるだけの、時間の余裕をみて起
きることができなかった結果なのである。学校と私の家との距離
は遠くて、一時間半はかかる。八時はじまりだったので、学校に
まに合うには、六時半に家を出ねばならず、したがってそのまえ
に食事をこしらえて、弟にもたべさせ弁当をつめてやり、自分も
身繕いなどをすれば、どんなに手早くしても五時半には起きるこ
とになる。その五時半が辛いのだった。弟には是非お弁当を持た
せようと思う気もちがあるので、これは無理にもこしらえるが、
自分はおひるぬきの空腹のほうが遅刻よりまだしもである。ひっ
そりと全校の生徒が着席している朝礼の講堂へ、ことりことりと
靴の音を忍んではいるほど情ないことはない。
そんなことは友だちには知られたくなし、十二時になると校庭
へ抜けて行く私に、「どうしたの?.」と案じてくれる人へは、い
~O
きゅうと訴えて、私の不届を暴露しようとする正直な虫なのであ
る。うそをつけば自然と意地っ張りになるものらしい。私は腹の一
虫に抵抗して、ますます贈甲斐ない弁当なしをとりつくろう意地
を張った。
側子さんという人がいた。つねに一緒にいるというほどの特別
ななかよしではなかったが、気もちのいい人だった。「どうした一
の?」と訊いてくれた。私は例のとおり、うそ返辞をする。
「そんならたべないほうがいいわね」と素直である。私はかんた」
んにだまされた伸子さんを、ちょっと滑稽に思った。
すると、その後しばらくして、「きょうもたべないの?」と言う。
のぶこ
私は例のとおり。
私のお弁当、決しておなかにさわらないお弁当なの。いっしょ
に半分ずつたべない?」
「だってたべたくないもの」
それがね、ちょっとたべればもっとたべたくなるお弁当なのよ」
何度押し問答しても、伸子さんはいささかも退くけは いがない。
ただ、「おなかにさわらない」「割合おいしい」というだけで、そ
のほかを言わず、愉しそうに誘うのである。なかよし同士のしつ
こい会話のかたちで言っているけれど、動かしがたい気もちを含
ませてくりかえし誘っていることは、もはや確実である。私はそ
の誘いに乗りたい。けれども、それに乗れば、これまでのうそや
とりつくろいば一挙にばれることになる。だから強情を張った。
でも、伸子さんは私よりも少し強かった。微笑と強情とでは、強
情が負けるのである
r
(幸田文「うそとパ
い加減にうそをとりつくろう。友だちを偽ることはできても、カ
ンタンに偽れないのはおなかの虫だった。この虫はぐうと鳴き、