そうあん
○ 次の文章は、松尾芭蕉の弟子のひとりである向井去来が、 別荘として使用していた草庵について書
いたものである。これを読んで、後の問いに答えなさい。
とび からす
*3
しろ
*1 嵯峨にひとつのふる家侍る。そのほとりに柿の木四十本あり。五とせ六とせ経ぬれど、 このみも持ち来
んらず、2代がゆるわざもきかねば、もし雨風に落とされなば、 王祥が志にもはぢよ、もし鳶・鳥にと
られなば、天の帝のめぐみにももれなむと、屋敷守る人を常はいどみ ののしりけり。
も
ことし八月の末、②かしこにいたりぬ。折ふしみやこより商人の来たり、 * 立木にかひ求めむと、 *5一貫
よろこ
なほ
父さし出し悦びかへりぬ。 *6予は猶そこにとどまりけるに、 Aと屋根はしる音、ひしひしと庭につぶ
する
がみ
る声、* よすがら落ちもやまず。明くれば商人の見舞ひ来たり、梢
B とうちながめ、「我*8むかふ髪
しらがお
あたい
のころより、白髪生ふるまで、このことを業とし侍れど、かくばかり落ちぬる柿を見ず。きのふの価
びん
●9かへしくれたびてむや」とわぶ。 「いと便なければ、ゆるしやりぬ。この者のかへりに、友どちの許へ
うそこ
*10消息送るとて、みづから落柿舎の去来と書きはじめけり。
柿ぬしや木ずゑはちかきあらし山
(『落柿舎ノ記』より。 設問の都合上、表記を改めた箇所がある。)
注 *1 嵯峨——京都市右京区の地名。
*2代がゆるわざ
さが
もと