琴
も る
今夜は雨が降っていて
お前の木琴がきけない
お前はいつも大事に木琴をかかえて
学校へ通っていたね
暗い家の中でもお前は
木琴といっしょにうたっていたね
そして
よくこう言ったね
「早く街に赤や青や黄色の電灯がつくといいな」
あんなにいやがっていた戦争が
お前と木琴を焼いてしまった
お前が地上で木琴を鳴らさなくなり
星の中で鳴らし始めてからまもなく
街は明るくなったのだよ
私のほかに誰も知らないけれど
今夜は雨が降っていて
お前 の木琴がきけない
本文は詩集『愛と死の歌』による。
一九二六(大正一五)~一九九七 (平成九)。詩人。本名は直寿(なおとし)。東京で生まれ、
1九四三年に東京育英実業学校卒業後、詩作を始める。「詩学」に投稿し、村野四郎にみと
められる。昭和二八年『金井直詩集』を発表。
「木琴」は合唱曲になり、多くの中学校で歌われてきている。
金井直