前略 東京に出稼ぎに出ている父親が、えびフライを土産に、盆に戻ってきた......。)
揚げたてのえびフライは、口の中に入れると、しゃおっ、というような音を立てた。 か
と、緻密な肉の中で前歯がかすかにきしむような、いい歯応えで、この辺りでくるみ
味といっているえもいわれないうまさが口の中に広がった。
二尾も一度に食ってしまうのは惜しいような気がしたが、明日からは盆で、精進しな
ければならない。 最初は、自分のだけ先になくならないように、横目で姉を見ながら調
子を合わせて食っていたが、二尾目になると、それも忘れてしまった。
不意に、祖母がむせてせき込んだ。 姉が背中をたたいてやると、小皿にえびのしっぽを
はき出した。
「歯がねえのに、しっぽは無理だえなあ、婆っちゃ。 えびは、しっぽを残すのせ。」
と、父親が苦笑いして言った。
そんなら、食う前にそう教えてくれればよかった。姉の皿を見ると、やはりしっぽは見
当たらなかった。姉もこちらの皿を見ていた。A顔を見合わせて、首をすくめた。
「歯があれば、しっぽもうめえや。」
姉が誰にともなくそう言うので、
B「んだ。うめえ。」
と同調して、その勢いで二尾目のしっぽも口の中に入れた。
父親の皿には、さすがにしっぽは残っていたが、案の定、焼いた雑魚はもうあらかたな
くなっていた。