2 古文を読んで、あとの問いに答えなさい。
たうじん
ざいにん
南都に歯取る唐人ありき。 ある在家人の、樫貪にして、利養を先とし、
こころ
事に触れて、あきなび心のみありて、徳もありけるが、虫の食ひたる歯
を取らせむとて、唐人がもとに行きぬ。歯一つ取るには、銭二文に定め
ぜににもん
せうぶん
たるを、「一文にて取りてたべ。」と言ふ。少分のことなれば、ただも取
こころざま
るべけれども、心様の憎さに、「ふつと、一文にては取らじ。」と言ふ。
やや久しく論ずるほどに、おほかた取らざりければ、さらば三文にて、
たま
歯二つ取り給へとて、虫も食はぬに良き歯を取り添へて、二つ取らせて
りぶん
きず
三文取らせつ。心には利分とこそ思ひけめども、疵なき歯を失ひぬる、
大きなる損なり。これはまうすに及ばず、大きに愚かなること、をこが
ましきわざなり。
*南都=奈良時代に都だった平城京のこと。
「
*唐人=中国から渡来した人。 *在家人=出家していない人。
*
さき