《中学三年生の渡部東真は、自分の絵の才能に自信を持ってい
た。ある日、同じ美術部員の映子の絵を目にする。〉
わた べ あず ま
(C
東真の横顔が描かれていた。胸から上。何も纏って
いなかった。前方やや右寄りに淡い光源があるらしく、
僅かなインエイができている。何かを決意した直後の
ように、口元が固く結ばれていた。
ら
天井と床が、くらりと揺れた。口を開け、犬のように
あえ
J
瑞ぐ。上手く息ができなかったのだ。
机の横で、もう一枚、同じ大きさのカンパスがやは
り後ろ向きになっていた。荒々しく掴む。真紅が目に一
飛び込んできた。大輪の蓄徹だった。真紅の蓄識が一輪
か ぴん
ガラスの花瓶にいけられている。蓄蔽は散る間際のよ
うで、花瓶の横には花弁が二枚、重なって落ちていた。
手が震える。これは何だと叫びたかった。これは何
だ。これは何だ。これは何だ。画布から立ち上るこの一
ケハイは何だ。意思と精神を携えた少年が画布から立一
ち上がる。花瓶の中で咲き続けた花の最後の光亡が画
布から燃え上がる。息が詰まり、手が震え、足元が定
こうぼう
まらない。すごい……。
「渡部くん……」映子の声がした。振り向こうとい
臓を懲掘みにされたほどの衝撃に陣いていた。天と地、
わしづか