やまが
せつしやう
あるらうにんの”いはく、備前をかやまにありしとき、 山家へ行てあそぶ。 そこなる人のかたりしは、殺生のために、
(山村)
(狩り)
によう
るときくわけだしに、としのほど甘ばかりの女ばう
(二十歳程度の女性で)
まみ麗にして世にたぐふべきもなし。色めづらしき小袖に、
(目元がうるわしく)
いる
よつね
髪の尋常ににほやかなるありさま、またあるべき人とも見えず。かかるたづきも知らぬ山中に、おぼつかなくも思ひければ、
(普通よりつややかな)
(こんな勝手もわからない)
(不 安に
まっただなか
(にっこりとほほえむ)
てつぱうとりなをし、真正中をうつに、右のてにこれをとり、ふかみ草のくちびるに爾乎とゑめるありさま、 なをすさまじ
(鉄砲)
(おそろし
くぞける。さてふたつ玉にて薬こみ、手まへはやくはなつに、これも左のてについとりて、さらぬていに笑ふ。このときに、
〇平然と)
あり
年を取
「はや手はつくしぬ。 いかがあらん」とおそろしく、いそぎてかへるに、追かけもせずかへりしなり。そののち、としたけた
る人にかたりしに、 「それは山びめといふものならん。気にいれば宝などくるるといひふれり」とかたる。 よしや宝は貰はずも
(たとえ宝は貰わなく
た)
あらん。
てもよい)
(「御伽物語」より)
らうにん=浪人。 主君に仕えていない武士。
※2 小袖着物の一種。
ぼたん
ふかみ草牡丹の別名。
ふたつ玉にて薬こみ=銃に弾薬を二つこめて。
(深い山)
[注] 1
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とぎ