「柳子の実」
島崎藤村 作詩 田中寅二 作曲
名も知らぬ 遠き鳥より
流れ寄る 醒子の実一つ
敢卿 (ふるさと) の岸を 離れて
流 (なれ) はそも 波に幾月 (いくつき)
旧 (もと) の木は 生 (お) いや茂れる
校はなお 影をやなせる
われもまた 潜 (なぎさ) を枕
孤身 (ひとりみ) の 浮寝(うきね) の旅ぞ
実をとりて 胸にあつれば
新 (あらた) なり 流離 (りゅうり) の愛 (うれい)
海の日の 沈むを見れば
激 (たぎ) り落つ 異卿 (いきょう) の涙
思いやる 八重 (やえ) の汐々 (しおじお)
いずれの日にか 国に帰らん