<熊本改〉
3 次の古文を読んで、後の問いに答えなさい。
あが
*ちいん
鎌倉に、知音なりける二人の武士あり。共に地蔵を信じて崇め供養しけり。
一人は、さうがうも整ほらぬ古き地蔵をぞ、花香たてまつりて崇めける。もう
一人は、地蔵をいみじく造り立てて、厨子なども美麗にしたてて崇め供養しけ
り。
この人、先立ちける時、この知音、地蔵を信ずる人なればとて、本尊を譲り~
てけり。喜びて、今の本尊を崇め供養して、古き地蔵をばかたはらにうち置き
て供養せざりけり。
ある時、夢にこの地蔵、
気色にて、
世を救ふ心は我もあるものを仮の姿はさもあらばあれ
かくうちながめたまふと見て、驚き騒ぎて、一つの厨子に安置して、同じく供
養をしけるとぞ。
しゃせきしゅう
<「沙石集」より>
(注) 知音=親友。 さうがうも整ほらぬ姿形が整っていない。
たてまつりて差し上げて。
厨子仏像などを安置する、 両開きの扉のある箱。
したてて飾り立てて。 先立ちける=先に亡くなった。 気色=様子。
さもあらばあれ=たとえどんなふうであったとしても。
うちながめたまふ和歌をお詠みになる。
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