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問しい
次の文章は、「泊酒筆話」の一節である。注を参考にしてこれを読み
答えよ。
4
ざえ 〃ったな
常にいはれしは、「おほよそ⑥初学びのほどは、 ③ 心より外に歌数
多く出で来、又は思ふに従ひて口に「いひ出でらるるをりもあるもの
なり。是れ誠に出で来るにはあらず、 ④ 考たらずして、ようはべの心
よりただ出でに出で来るのみなり。たのもしき事に思ふべからず。あ
る時は一日思び凝りても、ふつに出で来ぬをりもあるものなり。
⑥さる時は、我が才の拙きを恨みて、今は歌詠まじ。かくまで出で
来ぬ事とかこたるるものなり。そはなかなかに、歌の上達すべ
関なり。ここにて思ひたゆめば終に此の関を越えずして、中途に
し、やがて詠みやむものなり。ここにて思ひおこして、たゆみなく此
の関を越ゆれば、又口 ③ ほごれて、詠みよくなるものなり。 ⑩ 朝夕歌
心をゆだね詠む人は、一年に二度三度此の関に行きかかるぞかし。
こもから
学びの輩、ここに心つけよ」といはれき。
(「新日本古典文学大系」による)
注 ①いはれしは=私が歌を学んでいる師匠がおっしゃったことは
②初学び=習いはじめ ③心より外に=意外に
④考たらずして考えが浅くて ⑤ふつに出で来ぬ=全く出てこない
⑥さる時は=そんな時は
⑦かこたるる=嘆いてしまう
⑧ なかなかに=むしろ
⑨ほごれて=ほどけて ⑩ 朝夕=いつも