現代文
高校生
問5が難しいです。
どういうふうに考えればいいのか教えてほしいです🙇♂️
小池昌代
背·背なか·背後
待ち合わせ場所にすでに相手が到着していて、しかもそのひとが後ろ向きに立っていたような場合、一瞬、どんなふ
うに声をかけようかと、迷いながら背後からそのひとに近づいていく。
前からだったら、目と目があえば、それで済む。待った? 久しぶりね、さあ、行こう 会話は船のように自然と
ピトの無防備な背中を前にすると、なぜか言葉を失ってしまう。つきあってきたのは、どのひととも、彼らの正面ば
かりのような気がして、心もとなく背中をナガめやる。
そのひとがくるっと後ろを振り向けば、ただちにわたしは、そのひとの世界に合流できるのに、後ろ姿は閉ざされた
そのままわたしが行きすぎれば、そのひととわたしは永遠に交わらないまま、これを最後に別れてしまうかもしれな
3
待ち合わせの約束東を一方的に破棄するのだから、これは裏切りだが、出会うことは常におそろしい衝突でもあるから
衝突をさけて、ひとの背後を、ひたすら逃げ続けるという生き方もある。例えばハンザイ者か逃亡者のように
そういう考えが、ひとの背を見ながら、わたしのなかにひょこっと現れる。そのことはわたしを少し驚かす。わたし
は何かを恐れている。
そもそも背中は、そのひとの無意識があふれているように感じられる場所である。だから誰かの後ろ姿を見るとき、
見てはならないものを見たようで後ろめたい感じを覚えることもある。
背中の周りに広がっているのが、そのひとの「背後」と呼ばれる空間だ。自分の視線がまったく届かない、見えない
後ろ半分のこと。わたしはこの空間になぜか惹かれる。見えない、というところに惹かれているのだろうか
ひとは自分の背後の世界で、何が起きているのか知り得ない。だから背後は、そのひとの後ろに広がっているのに
そのひとだけをユイイツ、排除して広がっている。
背後という空間から、その人自身が排除されているといっても、それはひとと背後が無関係であるということではな
い。振り返りさえすれば、いつでもひとは、自分の背後がそこにあることに気づく。もちろん、振り返ったのち一瞬に
して、そこは背後ではなくなるわけだが、先ほどまで背後としてあった気配は、すぐには消えないで残っている。
そのとき今度は正面であったところが、自分の背後と化している。しかし意識が及ぶのは、常に眼前の世界で、背後
のことはソクザに忘れられる。視線の行くところが意識の向くところだ。だから目を開けて背後を考えるのは、開いて
いる目を、ただの「穴」とすることに他ならない。その穴のなかを虚しい風が通り抜けていく。背後を思うとき、自分
が、がらんどうの頭蓋骨になったような気がする。
ひとと話をしていて話の途中で、そのひとの背後にふと視線が及ぶことがある。
何かとても大切なことを話しているときに、後ろで樹木がはげしく風にユられていたり、夕日がまぶしく差し込んで
いたり、鳥が落ちてきたり、滝が流れていたり、不吉な雲が流れていたりするのに目がとまる。
不思議な感じがする。こちら側の世界と触れ合わない、もうひとつの世界が同時進行で存在している。そのことに気
づくとおそろしくなる。背後とはまるで、彼岸のようではないか。
そしてわたしが見ることができるのは、常に、他者の背後ばかりだ。見えるのが、いつも、ひとの死ばかりであると
いうことと、これはまったく同じ構造。
自分の死が見えないように、自分の背後は見えないし、そもそもわたしは、自分の後ろ側など、まるで考えもせずに
暮らしている。見ることができないし、見る必要もないのだ
ただし、着物を着て、希の具合を見たいときなど、あわせ鏡で確認することはある。このことを考えると、やっぱり
鏡とは、魔境へひとを誘う魔の道具であると思う。しかも、背後へは、この道具をダプルで使用しなければならないの
だから、ひとが自分の背後へ到達することの、おそろしさと困難さがわかろうというものだ
ともかく、背後は死角である。
死角を衝かれる時、ひとは驚く。わたしが冒頭に、後ろからどう、ひとに声をかけようかと迷ったのも、相手をびっ
くりさせないためにはどうするのがいいのか、という思いもあった。
そもそも身体に触れないで、声だけでそのひとを振り向かせることはできるのだろうか。
簡単なのは名前を呼ぶことだ。名前というのは、そのひとを呼び出す強力な呪文みたいなものである
わたしは会話のなかで、対面するひとの名前を呼ばずして、そのひとと会話を進めることに、いつも居心地の悪い思
いを持つ。あなたという二人称はあるけれども、固有名詞で呼びかけずにはいられない。相手のひとにも名を呼んでほ
それはわたしが、何か強い結びつきで、この同じ場に、対話の相手を呼び出し、呼び出され、ともに在りたいと願う
からなのだろう。
名前を呼ばずに、例えば、あの1お待たせしました、とか、小池で1す、こんにちは、とか、そういう類の言葉を投
げかけて、そのひとが確実に振り向くかどうか。わたしにはほとんど自信がない
だからそういうとき、やっぱり、相手の肩のあたりを、ぼんと軽く叩くかもしれない。あるいはわざわざ正面へ、ま
わるか。
O.
背後の世界をくぐるとき、わたしたちは一瞬にしろ、言葉というものを、放棄しなければならないということなのだ
傍線部ア~オのカタカナの部分を漢字に改めよ
ロー
問2 傍線部1「会話は船のように自然と進む」、俺線部2「後ろ姿は閉ざされた扉だ」に見られる表現技法を、それぞ
れ二字で答えよ。
問3 傍線部A 「ヒトの無防備な背中を前にすると、なぜか言葉を失ってしまう」とあるが「青中」はどういう点で「無
防備」なのか。六十字以内で答えよ
問4 傍線部B「背後とはまるで、彼岸のようではないか」とあるが、どういうことか。七十字以内で説明せよ
問5 傍線部C「背後の世界をくぐるとき、わたしたちは一瞬にしろ、言葉というものを、放棄しなければならないと
いうことなのだろうか」とあるが、「背後」から相手を振り向かせようとするとき、なぜ「言葉というものを、放
棄しなければならない」のか。本文の表現を用いて八十字以内で答えよ
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