現代文
高校生

この3つの問題について解説お願いします。
わかる問題だけでも構いません。

第三展望台には売店もおトイレもなかったが、真上から摩周湖を見ることができた。おトイレはそ の前にすませればいいだけの話だし、売店があったら余計なものをつい買ってしまい、あとで後海す るのは目に見えている、というのが下調べをした父の意見で、わたしたち-家は第三展望台から摩周 湖を見ることにしたのだった。 「霧が多いんだ。たいていは霧がかかっていて、よく見えないんだ」 階段をのぼりながら父が言った。車のなかでも言っていた。 「よく見えなくても、がっかりしないこと。それが普通なんだから」 つづけて父が言った。そのたび、母と姉とわたしは、「はい」と返事した。わたしは、たとえ摩周湖 がよく見えなくても、がっかりしないようにしようと思った。そのためには、いったん、がっかりし なくちゃいけなかった。がっかりしておかないと、がっかりしないようにはできない。 七蔵のわたしにとって、摩周湖見物は、そんなに愉しみではなかった。むしろ 湖があるだけだ。動物園も遊闘地もない。売店もない。買う買わないはべつにして、キーホルダーや ノートなんかのお土産をひとつひとつ手に取りながめることができない。 「もしも晴れていたら、すばらしくきれいなんだ。こころが吸い取られるくらい、それはそれはきれ いな青い湖なんだよ」 この言葉も父は何度も口にした。それから「でも霧が多いんだ」と言い、「よく見えなくてもがっか 「際周湖の水は」 父は目の下の深い青に視線を移した。 「ほとんど雨なんだ。注ぎ込む川がないから、不純物が入ってこない。かぎりなく純粋な水だからこ そ、こんなに美しいんだよ」 父の口調は先生のようだった。なんにも知らないわたしたちに、やさしく教えてあげるようだった。 小学校教論の父は、ときどきこういう口調になった。わたしたちは、つねに『よい生徒だった 「流れ出る川もない。水位が一定なのは、たまった水が地下水になって、わき出しているからなんだ いつも一定量の清らかな水で満たされてるってわけさ。すごいね」 うん、すごい、と父は、恐ろしく澄んだ、深く青い湖を見つめた。父が黙ったので、わたしたちも 口をつぐんだ。わたしたち一家は少しのあいだ、無言で湖を見つめた。“わたしはだんだん心配になっ た。母か、姉か、どちらかが早くなにか言えばいいのに 父がわたしたちにやさしく教えてあげたときの反応は、むつかしかった。父の知識に感嘆する場合 が多かったが、そうでない場合もあった。父がわたしたちにやさしく教えてあげたことのなかに、隠 された意味||父がほんとうに言いたいことーがあって、それにちゃんと気づかないと、父の機嫌が 悪くなるのだった。 たの 億却だった。ただ りしないこと」と念を押し、また「もしも晴れていたら」と言った。何度も言った。だから、わたし は。「おとうさんの言う通りだったね」と言ったあと、うなだれ、 唇を噛み締めるのがいちばんいいと った。 母と姉もそうするにちがいなかった。母と姉がそうするのは、本心からなのか、わたしのようにち ょっとがんばってそうするのかは分からなかった。でも、そうしないと、父がおもしろくない顔をす るので、そんなことはどうでもよかった。父の望む反応をしたいのは、わたしの本心だったし、それ」 は母も姉も同じだと思った。 父が声を漏らした。 不機嫌な父は真冬のドアノブのようだった。うっかり触れたら、パチッときそうだった。そんな気 配をあからさまに、濃厚に、漂わせた。こめかみに立てた青筋をびくつかせ、薄くて赤い暦をわなな かせ、白目の分量の多いつり目でわたしたちを脱んだ 「わたしたちの家みたい」 母が言った。ほのかな笑みを浮かべ、きわめてのんびりと言った。 「そうだね」 父は即座に応じた。 r°階周瀞家族ってやっだ」 と姉とわたしを交互に見て、顔をカタカタと左右に振った わたしは 息を飲んだ その日の摩周湖は晴れていた。青空をもっと青くした青が目の下に広がっていた。青空よりも青い のに、青空みたいに真っ白な雲を浮かべていた。 姉が読んでくれた『-ふさのぶどう』を思い出した。絵の得意な主人公が海の青を描きたくて、で も、その海の青をあらわす絵の具を持っていなくて、ジムという子の絵の具を盗む話だった。そのと き、わたしは主人公のきもちが理解できなかったが、摩周湖を見て得心がいった この青をあらわす絵の具があれば絶対欲しい。絵を描きたくなったのではなくもともとそんな に得意ではなかったし、この青をじぶんのものにしたくなったのだ。できれば、この青を連れて 帰りたかった。ここの育でわたしの部屋を満たし、そのなかで、ぶくぶくとあぶくを吐き出しながら 泳いでみたかった。 「晴れた摩周湖を見られたら、結婚が遅くなるらしいぞ」。 木の手すりに肘をのせ、半身のかまえで父は姉とわたしを交互に見た。頼骨の出張った、細くて長 い顔をカタカタと左右に振った。これは父が面白いことを言ったときの合図だった。 「やった1」 わたしはバンザイをしそうなからだの動きをした。そんなわたしを見て、姉がお腹をかかえて笑っ た。母も笑い、父も笑った。わたしも笑った。大きな口を開けて、笑った。 わたしたち一家の笑いがすぼまるように落ち着き、わたしはあらためて目の下の青を見つめた。わ たしたち一家は、この青のように美しい。父がそう思っているのだから、そういうことになる。父が そう思うかぎり、わたしたち一家は、すっと、ずっと、美しいままなのだろう。不純物は侵入せず、 流れ出るものもなく、一定の水位を保つ。 「Rーを2-」 姉がからだをくねらせた。笑いつつも「イーだ」の顔つきで父をぶつ身振りをした。 「や や」 「そろそろ行くか」 わたしも姉と同じようにした。お嫁にいくという未来のできごとは遠すぎて具体的な像を結ばなか ったので、少しくらい時期が遅くなってもぜんぜん気にならなかったが、そうした 「おとうさんは遅いほうがいいんじゃない?」 母が言った 「いつまでも、ふたりにいてほしいんじゃない?」 ぼっちゃりとした頬に手をあて、父に向かって目を細めた。 父が腕時計を見た。 「おばあちゃんが首をながーくして待ってるぞ」 カタカタと顔を左右に振りながら、父はきびすを返した。母、姉、わたしもあとにつづいた。 わたしたち一家は祖母の家にあそびにいく途中だった。朝早くに出発し、父の運転でドライプして きた。夏休みを利用しての二泊旅行だった。 (朝倉かすみ「へっちゃらイーナちゃん」による。本文中に一部改変したところがある。)
間2 傍線部A『『おとうさんの言う通りだったね』と言ったあと、うなだれ、唇を噛み締めるの がいちばんいいと思った」とあるが、このときの「わたし」の心情の説明として最も適当な ものを、次のの~6の中から一つ選びなさい。 e 父は美しい摩周湖の景色を家族に見せたいと心から思っているようだが、実際「わたし」 は摩周湖の景色に少しも関心がなく、父の機嫌を損ねないように、あえて悲しそうな表清を しておこうと思っている。 父は家族に気をつかって美しい景色を見ることができなくてもがっかりしないようにと 何度も言ってくれているので、実際に景色を見ることができないときは父の悲しみに寄り添 おうと思っている。 父は美しい摩周湖の景色を家族に見せたいと言いつつも霧で見ることができない可能性 が高いと「わたし」の気持ちを落ち込ませることを何度も繰り返して言うので、自己中心的 な父のことを恨めしく思っている。 父は美しい摩周湖の景色を見ることができなくてもがっかりしないようにと言っている が、かといって実際に見ることができなかったときに残念な素振りをしなければ父は不満に 感じるにちがいないと思っている。 父は摩周湖の美しい景色を家族に見せようとしているが、結果的に霧によって見ることが できないだろうと責任を逃れようとしているので、父親としてしっかりしてほしいと思って 問4 傍線部C「摩周湖家族ってやつだ」とあるが、この発言からうかがえる父の心情の説明とし て最も適当なものを、次のの~5の中から一つ選びなさい。 く 摩周湖の美しさと自分たち家族の美しさを重ねた、自分の考えに合った妻の言葉がうれし く、同時に自分の知識に感動しているように思えて、思い通りだと喜ぶ気持ち 妻の言葉に満足すると同時に、いつも一定量の清らかな水で満たされている摩周湖と自分」 たち家族とを重ねた自分の言葉が言い得て妙な表現だったと我ながら満足する気持ち。 摩周湖が常に一定の清らかな水で満たされていることと、自分たち夫婦と子どもたちそれ」 ぞれが家族のことを大切に思っていることを重ねて、すばらしい家族だと感嘆する気持ち 自分が黙りこくってしまったせいで場の雰囲気を悪くしてしまったが、妻が自分たち家族 を摩周湖のように美しいと言ったことでその場の緊張感がゆるみ、安心する気持ち。 摩周潮の水の説明に誰も反応してくれず不機嫌だったが、摩周湖の美しさと我が家の家族 愛を重ねた妻の言葉で機嫌が直り、面白い冗談を言って楽しむ気持ち。 い° 間1 傍線部(ア)~(ウ)の語句の本文中における意味として最も適当なものを、次の各群のO ~回の中からそれぞれ一つずつ選びなさい。一8 2 父の話を素直に聞き理解しようとした 父の教えが正しいかどうか考えていた一 父の教えを守ろうと注意深く聞いていた 父の話にうなずき分かったふりをした 父の教えに疑問を持ち質問しようとした よい生徒だった

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