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6 小説文1
だが享二は無言のままひたい!
1 次の文章を読んで、あとの問いに答えよ。
旧暦では七月二十九日。外はたしかに闇だった。
立て、ついでじわり、じわりと頭をもたげる......。 けれど、
に立て切れず、中途でパタリ!
亮太はそれまで雲行きをみるかに勉強部屋にうずくまっていたが、
「おれ、享二ことさがしてくるよ。」と土間に駈け下りた。
「おらも行くよ。」と、きぬも竈から飛び出した。
なみも急に不安にとりつかれ、「それじゃたのむよ。」と、そそくさ
提灯に火を入れた。外出に備えて、提灯はいつも大黒柱の横に用意さ
れていたのだ。
なみはおろおろ声に、「享二 ほんとにあんばいでも悪いんじゃねえ
のか。さ、早く起きるんだよ。」と享二を抱き起こしにかかる...…..。
享二はその手を払って、「ちがうべな。」そして再び両を立て、頭
をもたげながら、 「牛のころはこうやって、バタン、バタン、三べんこ
ろんで、四へんめにうまいこと、立ったんだよ。おれ、ちゃーんと見30
てたんだから….…..。 浅川のじいちゃんもばあちゃんも、 牛のころって
だしたもんだ。ああやって、ころんでもころんでも、ひとりで立つだ
から….…..って言ったど。」
かれ
ところがその時、“夕やけこやけで······〟と享二の歌声が聞こえて
きた。 走りながら歌っているらしく、声は刻々に近づいて、程なく彼
は戸口に姿を見せた。
「この野郎!」
さては土に腹這ってのしぐさは、他ならぬ仔牛の起ち上がり実演だ
ったのかと、
亮太は笑顔で睨みつけた。
なみはまだ四つん這いのままでいる享二を抱き起こして、
享二はきょとんとして、「兄ちゃん、提灯つけて、どこさ行くだか?」
亮太はぶっと提灯の火を消した。
「享二のおかげで、おっ母さん、一つ、利口になったよ。 おっ母さん
あとあし
要吉は掬うように享二を抱き上げ、
「こんなに暗くなるまで遊んでては駄目だろが?」
も馬のころは後脚から立つし、牛のころは逆に前脚から立つとハナシ
には聞いてたけんど、実際には見たことがないもんで、よくはわから
なかったんだよ。」
「うふふ
#N
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」
「だって、浅川のじいちゃんとこで牛のころがうまれたんだもの。お
れ、ずーっと見てたんだよ。 牛のころは、うまれてじきに歩くんだぞ。」
そして要吉の腕からすりぬけると、べたり、土間に腹這った。要吉
は驚きあわてて、「どうしたあんばいでも悪いのか。」
享二は満足一杯に笑った。そして、「おっ母さん、ころは立つと、間
なしに歩いたよ。脚、 みな動かして歩いたよ。」
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なみはなみで、「ほら、そんなことすると、きものがよごれちまう
「脚、みな動かして歩いたか。そら、よかったのう。 もし一本でも動
かねえことには、ころはうめえ具合に歩けないもの、のう。」
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