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私は、自分が勤めている大学で、「神経難病で呼吸機能が低下したときの人工呼吸器の
「装着」といった生命倫理に関する問題や、「人身売買」 といった社会的問題について、具
体的なケースの検討を通して学生たちに考えてもらうことがある。そこで「もしあなた
だったら、どうしますか。」と問うと、ときどき「私はそうなることはまずないと思うので、5
わかりません。」とか「そういう人がまわりにいないので、想像できません。」という答え
が返ってきて、驚くことがある。いま健康であること、いま平和で豊かな社会にいること
は、偶然であるかもしれないのに、それがあたかも当然であり、その「安全な多数派」で
あるという状態がいつまでも続くかのように思っているのだ。そして、そうでない人たち、
つまり今の自分から見て 「少数派」である人たちの気持ちを想像する必要などないではな
いか、というのが暗黙の了解になっているようなのだ。