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136 第5編 有機物質の性質
239 <エステルの還元による構造決定 ★★★
エステルを加水分解するとカルボン酸とアルコールが得られる。 一方、エステルを
還元的に分解すると,次の反応式で示すようにR-CH OH およびR'−OH の2種類の
アルコールが生成する。 ここで、Rおよび R' はアルキル基を表している。
→ R-CH OH + R'−OH
R-C-O-R
O
このエステルの還元には水素化アルミニウムリチウム (LiAIH) が試薬として有効に
作用する。 このLiAIH」 はLi+とAIHからなるイオン結合性の物質で、 水素化物イオン
H を生成してカルボニル基の炭素原子を攻撃するので、カルボニル化合物の還元な
どに広く用いられる。例えば、アルデヒドやカルボン酸は第一級アルコールに,ケト
ンは第二級アルコールに還元することができるが、カルボニル基をもたないアルケン
やアルキンをアルカンに還元することはできない。 以上のことをもとにして,次の各
問いに答えよ。
(1) 次の化合物(ア) (オ) を LiAIHで還元したとき、同一の生成物を生じる組み合わせ
をすべて記号で選べ。
(ア) CH3CH2-CH=CHO
(イ)CH3CH2-C-CH3
O
(I) CH-CH-CH-C-O-CHS
O
(ウ) CH3CH2-CHO
(オ) CH3-C-O-CH=CH-CH3
分子式がCeHis で、2個のエステル結合を有する化合物Aがある。 A を LiAIH』で
還元したところ,いずれも不斉炭素原子をもたない3種類の化合物 B, C,D が得られ
た。 B は分子式がC-HBOで, 酸化するとケトンを生成した。 Cは分子式がC4H10O2の
2価アルコールであった。
一方, Aを酸を触媒として加水分解したところ, 3種類の化合物B, E, F が得られ,
そのうちEには1個の不斉炭素原子が含まれていた。
(2) 分子式 CaHiiO2の2価アルコールには全部で何種類の構造異性体が存在するか。
また,そのうち不斉炭素原子をもたない異性体は何種類あるか。 ただし, 2個以上
のヒドロキシ基が同一の炭素原子に結合した化合物 (gem-ジオールという)は不安
定なので、除外して考えるものとする。
(3) 化合物B,E,Fの構造式をそれぞれ記せ。
(4) 化合物Aの構造式を記せ。
(5) 同位体を分子内にもつ水 (H2O) で化合物Aを加水分解したとき, 生成する
化合物B,E,Fのうち"Oを含むものをすべて記号で記せ。
(関西大改)
しかし, 本間は化合物 D, F に対しては何種類の立
体異性体が存在するかの可能性を問うているだけで
あるから, トランス形の2種類とシス形 (メソ体) の
合計3種類と答えるのが正解である。
参考
239 (1) (ア) (エ), (ウ) (オ)
(2) 6種類, (不斉炭素のないもの) 3種類
(3) B
E
O
CH3-CH-CH 3 HC-CH-C-OH
CH₂-OH
OH
0
CH₁-C-OH
(4)
F
シス付加とトランス付加
100
アルケンに対する臭素付加は、2個のBr原子
が同時にC=C結合に付加するのではなく、2段
階の反応で行われる。すなわち, C=C結合の
つくる平面の一方から先に Br* が付加し、その
反対側から少し遅れて Br" が付加する。 このよう..
うな付加をトランス付加といい, アルケンに対
するハロゲン化水素水 硫酸などの付加も同
様に行われることが知られている。 一方、アル
ケンに対する水素付加は、白金やニッケルなど
の金属触媒を用いる。 このとき, アルケン分子
も水素分子も金属表面に吸着され, 活性錯体を
つくることで水素付加が起こる。このとき 2
個のH原子はアルケンのC=C結合のつくる平
面に対して同一方向からのみ付加する。 このよ
うな付加をシス付加という。 硬化油の製造な
ど, 金属触媒を用いた水素付加はシス付加で行
われることが知られている。
。
11
CH 30
CH.-C-O-CH,-CH-C-O-CH-CH3
解説 (1) 生成物はそれぞれ次の通り。
(ア) C-C-C-C-OH
(1-ブタノール)
H
CH3
(1) C-C-C-C
(ウ) C-C-C-OH
(1-プロパノール)
(エ) C-C-C-C-OH, C-OH (メタノール)
(オ) C-C-OH (エタノール)
O
R-C-O-R'
LiAIHA
OH
(2-ブタノール)
H.
C-C
H&C Co − CH-CH-CHO
転位H
(5) EとF
R-C-O-R
11
。
R-CH2OH
+R-OH
すなわち, エステル結合1個につき, H原子が
個増加する (加水分解ではないので、原子は一)
Aはエステル結合を2個もつので, B,C,D の分子式
中の原子数の合計は, A の分子式に4×2=8 [個]]
H原子を加えたものに等しい。
... D の分子式: CH1608 +8H-C3H.O (B)
_CHO_(C)=CHO
C-C-C-OH
(1-プロパノール)
(2)(3) A を LiAIHで還元的に分解すると,いず
れもアルコールが生成する。
R-CH₂OH + R'-OH
..Dはアルコールなので、エタノールと決まる。
また, B (分子式 CHO) を酸化するとケトンを生成
するので、Bは第二級アルコールの2-プロパノール。
C (分子式 CH2O2) は2価のアルコールで、その可
能な構造は,炭素骨格 (i) C-C-C-C (ii) C-C-C
をもとにして,題意より同一の炭素原子にOH基が
1個だけ結合したものだけを考えればよい。
(a)
(b)
(c)
(d)
C-C-C-C
OHOH
C-C-C-C
OH OH
C-C-C-C
OH OH
(e) C
C-C-C
LL
OHOH
②
① ジエステル→
C-C-C
OH OH
構造異性体は全部で6種類。 このうち、不斉炭素
原子をもたないのは (c), (e), (f) の3種類。
Aはジエステルだから、 加水分解の式は次の3種
A+2H2O→B+E+F
ジエステル
C-C-C-C-
OH
OH
ジカルボン酸+アルコール+アルコー
③ ジエステル→
ヒドロキシ酸+アルコール+カルボン
二価アルコール+カルボン酸+カルボン
このうち、Bは第二級アルコールと決まってい
ので、③は不適。 また, E, F のうち,不斉炭素
子をもち得るEはC 化合物の方である。
∴. FはD(エタノール) と同じ炭素数2の化
である。
(i) Fをエタノールとすると, Eはジカルボ
となるが, Cのジカルボン酸で不斉炭素原子
つものは存在しない。 (① は不適)
.. Fは酢酸であり、 EはCヒドロキシ酸で、
Eを還元して得られるCは不斉炭素原子をもた
ce), (f) のいずれか。 よって E
えられる構造式は', 'f' この
不斉炭素原子をもつのは、 最後の (f)' である。
(e) C (f) c
HỌ-C-C-C-COOH HOOC-C-C HO-C-CO
(c)'
OH
.Eは(f)'と決まり Cは(f) ' を還元し
をもつ (f) と決まる。