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問 1.次の事例と考えるためのヒントをよく読み、 憲法上の争点を明らかにし、検討しなさい。
【事例】
202X年、政府は円安とそれに伴う物価の高騰を受けて、 生活保護法 31 条 1 項の生活扶助に
おける金銭給付を現金ではなく大手ネットショッピングサイトを運営する企業 (以下、 X) の生活扶助
相当分のギフトカードによって行うことを決定した (例えば、生活扶助が月額 140000 円/世帯の
場合、同額のギフトカードを支給する)。これに伴い、生活保護法 19 条による生活保護の決定は従
来通り都道府県知事や市町村長が行うが、 生活保護の実施 (月ごとのギフトカードの給付、 給付後
の生活相談等の業務) は今後 X が行うこととなった (以上の法改正政省令改正は前年に行われ
ている)。 X のショッピングサイトでは食品・日用品 電化製品等、 生活に必要なあらゆる物資が販売
されているが、インターネットにアクセスのうえアカウントを作成しなければならないほか、 送料や手
数料が含まれているため、 実店舗で購入するよりも価格が 1~2割程度高く設定されている (例え
ば、お米 10kgは実店舗では3000円だが X では 3450円で販売されている)。 また、これにより
生活保護の受給者は X以外の店舗で生活に必要な物資を購入することができなくなった。 制度変
更の主旨を政府は次のように説明している。
「Xで生活に必要な物資を購入してもらえば、毎月必要な物資が自動でトップの 【おすすめ】に表
示されるようになるので、 生活保護の利用者の方にとって便利になる。 また、購入履歴を X が管理
するようになれば、 無駄遣いや健康に悪いものを反復継続して購入している場合等にメール等で
注意喚起を行うことができ、 生活保護を利用されている方の家計・健康管理にもつながる。 また、民
間の知見を行政が取り入れることで風通しも良くなる。 今後は行政ではなく民間企業の X が生活
保護を実施することで、生活保護を利用される方も生活の相談がしやすくなるのではないか。」
従来から生活保護を受給している Y は、 生活保護費が現金ではなくギフトカードとなることにより、
事実上生活保護費が削減されており生存権を侵害し憲法25条1項に違反すること、 Xが購入履
歴を収集・管理・利用することはプライバシー権を侵害し憲法13条に違反すると考えている。 Y の
訴えは認められるだろうか。 上記の政府や X の対応について、 憲法上いかなる問題があるかを明ら
かにし、その争点ごとに詳しく検討し、説明しなさい。
○ 考えるためのヒント
民間企業である X による人権侵害において、 憲法はどのように適用されると通説・判例は考え
ているのか、説明しなさい。 (ヒント: 国家と個人との関係ではなく、 民間企業と個人の関係
であっても憲法問題となりうることを論証する)
生存権の法的性質について、通説・判例はどのように考えているか、その理由も含めて詳しく
説明しなさい。 通説・判例によると、生存権の具体化において国はどのような地位を有するの
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