現代文
高校生
解決済み
この文章の中から「臆病な自尊心」と同様のことを表す語句を選ぶ問題がわかりません。ヒントでもいいのでよろしくお願いします。
時に、残月、光冷ややかに、白露は地にしげく、樹間を渡る冷風はすでに暁の
近きを告げていた。人々はもはや、事の奇異を忘れ、粛然として、この詩人の薄
一幸を嘆じた。 李徴の声は再び続ける。
5
なぜこんな運命になったかわからぬと、先刻は言ったが、しかし、考えように
よれば、思い当たることが全然ないでもない。人間であったとき、おれは努めて
人との交わりを避けた。人々はおれを据傲だ、尊大だと言った。実は、それがほ
とんど羞恥心に近いものであることを、人々は知らなかった。もちろん、かつて
の郷党の鬼才と言われた自分に、自尊心がなかったとは言わない。しかし、それ
は臆病な自尊心とでも言うべきものであった。おれは詩によって名を成そうと思
いながら、進んで師に就いたり、求めて詩友と交わって切磋琢磨に努めたりする "
ことをしなかった。かといって、また、おれは俗物の間に伍することも潔しとし
なかった。ともに、我が臆病な自尊心と尊大な羞恥心とのせいである。己の珠
にあらざることを惧れるがゆえに、あえて刻苦して磨こうともせず、また、己の
せっさたくま
たま
おそ
珠なるべきを半ば信ずるがゆえに、碌々として瓦に伍することもできなかった。
⑩ ふんもん ③さんい
おれはしだいに世と離れ、人と遠ざかり、憤悶と悪恚とによってますます己の内
358
きょごう
なる臆病な自尊心を飼いふとらせる結果になった。 人間は誰でも猛獣使いであり、
その猛獣に当たるのが、各人の性情だという。 おれの場合、 この尊大な羞恥心が
猛獣だった。虎だったのだ。これがおれを損ない、妻子を苦しめ、 友人を傷つけ、
果ては、おれの外形をかくのごとく、内心にふさわしいものに変えてしまったの
だ。今思えば、全く、おれは、おれの持っていたわずかばかりの才能を空費して
しまったわけだ。人生は何事もなさぬにはあまりに長いが、何事かをなすには
あまりに短いなどと口先ばかりの警句を弄しながら、事実は、才能の不足を暴露
するかもしれないとの卑怯な危惧と、刻苦をいとう怠惰とがおれのすべてだった
のだ。おれよりもはるかに乏しい才能でありながら、それを専一に磨いたがため
に、堂々たる詩家となった者がいくらでもいるのだ。 虎となり果てた今、おれは "
ようやくそれに気がついた。それを思うと、おれは今も胸を灼かれるような悔い
を感じる。おれにはもはや人間としての生活はできない。たとえ、今、おれが頭
の中で、どんな優れた詩を作ったにしたところで、どういう手段で発表できよう。
まして、おれの頭は日ごとに虎に近づいてゆく。 どうすればいいのだ。 おれの空
ひきょう
9費された過去は? おれはたまらなくなる。そういうとき、おれは、向こうの山 B
359
15
51
いわお
の頂の厳に上り、空谷に向かって吼える。 この胸を灼く悲しみを誰かに訴えたい
たけ
のだ。おれは昨夕も、あそこで月に向かって迎えた。 誰かにこの苦しみがわかっ
てもらえないかと。 しかし、獣どもはおれの声を聞いて、ただ、懼れ、ひれ伏す
ばかり。山も木も月も露も、一匹の虎が怒り狂って、哮っているとしか考えない。
天に躍り地に伏して嘆いても、誰一人おれの気持ちをわかってくれる者はない。
ちょうど、人間だったころ、おれの傷つきやすい内心を誰も理解してくれなかっ
たように。おれの毛皮のぬれたのは、夜露のためばかりではない。
5
ま
360
1
944
32
回答
疑問は解決しましたか?
この質問を見ている人は
こちらの質問も見ています😉
ありがとうございます。