なぜ「酸化 → 還元 → エステル化」なのか?
① 酸化を最初に行う理由
p-ニトロトルエンの –CH₃ は比較的酸化しやすいので、酸化剤(KMnO₄やHNO₃など)を使っても、–NO₂基は酸化に強く安定なのでそのまま残る。よって、–CH₃ → –COOH の変換は 選択的に可能。
② その後に還元
次に –NO₂ → –NH₂ の還元は、還元剤(Fe/HCl, Sn/HClなど)で行う
この時点では、–COOH は還元されにくいので選択的にアミノ基が得られる。
③ 最後にエステル化
得られた p-アミノ安息香酸(–NH₂, –COOH)をエタノールと酸でエステル化してベンゾカインを得る。
❌なぜ「還元 → 酸化」がダメ?
仮に最初に –NO₂ → –NH₂ を還元したとすると、
アミノ基(–NH₂)は酸化に弱い。
その後に酸化を試みると、アミノ基が酸化されて分解・副反応が起きる。つまり、–NH₂が酸化条件に耐えられないためダメ。
❌なぜ「酸化 → エステル化 → 還元」がダメ?
仮にこの順でやると、酸化で –CH₃ → –COOH
そしてエステル化で –COOH → –COOEt(エステル)
その後に還元を行うと、エステル基も還元条件に弱い。
Fe/HCl や Sn/HCl などの還元条件では、–COOEt が加水分解されたり、部分的に還元されることもある。ベンゼン環の他の部位も影響を受け、副反応が増える可能性がある。エステルは還元条件にそれほど安定ではないため、このあとから還元は不利。
だから、酸化→還元→エステル化となる。
要するに、他の物質や副産物を減らし目的の物質をたくさん生成させることが大事だから、順番を変えると、目的のベンゾカインが得られないか、収量が減ったり、余計な物質が多いと分離させる手間がかかる。それを減らす順である。
以下補足
ベンゾカインのエステル化は、濃硫酸を少量加えるが、
–NH₃+を–NH₂にするために塩基性にする。
還元時は、強塩基を使い弱塩基遊離させるのが普通だが、-COOHが反応して塩になるため、(9)の塩基性は弱塩基(または中性)で行う🙇