また、男、いささか人にいはれさわがるることありけり。そのこと、いとものはかなきそらご
とをあためける人の作りいでていへるなりけり。さりければ、かう心憂きことと、思ひなぐさ
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めがてら、
津の国の方へぞいきける。 しのびて知る人のもとに、かうてなむまかる。 憂
しよひて知る人
きことなど慰みやするといへりければ、
世の憂きを思ひ
の浜ならばわれさへともにゆくべきものを
はら
憂きことよいかで聞かじと祓へつつ違へ
の浜ぞいざかし
とて、いにけり。
いきつきて長洲の浜にいでて、網引かせなど遊びけるに、うらうらと春なりければ、
海いとのどかになりて、夕暮になるままにいつの間にか思ひけむ、憂かりし京のみ恋しくなり
ゆきければ、思ひながめつつ心のうちにいはれける。
はるばると見ゆる海べをながむれば涙ぞ袖の潮と満ちける
とある返し、
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