参考抗体の多様性
多様な抗原に対しては,その抗原それぞれに対応する可変部をもった抗体
が必要となる。抗体の遺伝子の数は必要な抗体の種類よりきわめて少ないが、
抗体の可変部のアミノ酸配列を指定している遺伝子が次のようなしくみに
よって多様化されることで, 多種類の抗体がつくられている。
同じ個体の体細胞は, 同じゲノムをもっている。しかし, B細胞とT細胞
では,分化する際に, 特定の遺伝子に関して遺伝子の“連結” による"再編成"
が行われる。成熟したB細胞は, 1個につき1種類の可変部をもった免疫グ
ロブリンをつくるが,例えばヒトの場合, 未分化なB細胞にある免疫グロブ
リンのH鎖の遺伝子領域の中には, 可変部の遺伝子である V遺伝子が 40種
類,D遺伝子が 25 種類,J遺伝子が6種類, そして定常部の遺伝子が並んで
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variable (可変)
diversity (多様)
いる。B細胞が成熟する間に,V, D, J遺伝子からそれぞれ1つずつ選ばれ
て“連結”され, “再編成”される(図I)。すると, このH鎖の可変部の遺
joining (接続)
伝子の組み合わせは 40 × 25 ×6=6000 通りになる。一方, L鎖の可変部に
はH鎖とは異なるV遺伝子とJ遺伝子があり, 同様の“連結” と“再編成”
によって320通りの組み合わせが生じる。そのため, H鎖とL鎖とからなる
抗体の可変部の遺伝子の組み合わせは, 192万通りにもなる。
このしくみは,1977年に利根川進によって解明され, この功績によって,
利根川は 1987 年にノーベル生理学·医学賞を受賞した。
つ
H鎖の遺伝子
V断片
D断片
J断片
定常部
未分化なB細胞
分化
V1
V2 v39
連結·再編成された遺伝子
成熟したB細胞
合成
|V1
V2 函J5-06-
免疫グロブリン
V2 DSJ5
H鎖
免疫グロブリン
本合成
成熟したB細胞
連結·再編成
J-ロー された遺伝子
L鎖
L鎖
本分化
未分化なB細胞
H--■■ ロ-ロ
定常部
L鎖の遺伝子
V断片
J断片
免疫グロプリン
D図I 抗体の多様性のしくみ