SK_
2 次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。
三五年前、事故に巻き込まれ半身に障害を負った「地蔵さん」(恵三)
は妻の「美也子さん」と離婚する。その後、母である「ヤスばあちゃ
ん」と二人で暮らしていたところに「ぼく」と「夏美」が訪れて親しく
なるが、ある日、突然の病気で倒れ、集中治療室に入ることになる。
ヤスばあちゃんは、その看護婦に小さくおジギをすると、地蔵さん
にぽつりと語りかけた。
「恵三やぁ、よかったねぇ、ほれ、美也子さんが来てくれたよう.………」
ぼくは、返事をするはずのない地蔵さんの口元を見た。あんぐりと開
いた口のなかに、昨日と同じットウメイなチューブが差し込まれている
る。
美也子さんは恐る恐るといった様子でベッドの柵に手をかけて、静か
に地蔵さんの顔を覗き込んだ。
「ほれ、せっかく美也子さんが来てくれたんだよう、恵三、目を開けて
みなよう….....」
ピ、ピ、ピ、と、 心拍を伝える電子音が無感情に響き、足元からは
加圧ベルトから空気がモれるプシューという音が聞こえていた。
「恵三......。 美也子さん、いま、幸せだってよう。よかったねぇ......」
ヤスばあちゃんのこの言葉に、美也子さんは「うっ」と声になら
ない声をもらして、むせび泣きはじめた。そして、 地蔵さんの胸のあ 5
たりに向かって「ごめんねぇ・・・・・・」と小声で言いながら、小刻みにしゃ
くりあげた。
横にいた夏美が、ぎゅっとぼくの手を握った。 振り向いて見なくても
分かる。夏美は、もらい泣きをしているに違いない。
美也子さんの肩は、小さく震え続け、しずくは、とめどなく流れ落ちた。 20
考えてみれば、そもそも美也子さんは地蔵さんのことを嫌いになって別れ
9